ターリバーンとパキスタン

中東ニュース

この記事によるとパキスタンは受益者だとされているが……。

タリバン、抑圧の実態変わらず 「受益者」はパキスタンと中国―英専門家

2021年08月19日07時05分

アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが全土を掌握し、新体制づくりに乗り出した。組織の実態や近隣国の反応について、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)客員教員で、対テロ、国際安全保障の専門家サッジャン・ゴヘル氏に聞いた。

「時事通信」より

なかなか興味深い記事だねぇ。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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受益者は誰だ?!

パキスタンの戦略的勝利?

前回、こんな記事を書いた。

この記事ではパキスタンに関する記事を書かなかったのだが、コメントを頂いた。そう言えば、触れる必要があったなぁと思い直したので、少し言及しておきたい。

まず、パキスタンが如何なる国か?というと、インドと対立する世界で2番目にイスラーム教徒の多い国だとされていて、アフガニスタンと隣接する国でもある。参考までに地図も出しておこう。

インドとパキスタンの仲の悪さはかなりのもので、英領インドから独立を勝ち取った後に、イスラム共和国として独立している。インドがヒンドゥー教徒が支配的な地域である事を考えれば、仲が悪くなるのも無理はない。

ヒンドゥー教徒が多神教であるのに対して、イスラーム教徒は一神教寄りの排他的な性格を有する教えを頂いているからね。宗教的には相容れないわけだ。それを国教として頂いているパキスタンにとって多神教のインドは言わば邪教の国だ。

厄介な事に、パキスタンではイスラーム教徒以外が、インドではイスラーム教徒が迫害され、国外に逃れる事案が多発したこともあり、それがイギリスの植民地政策での狙いでもあったお陰で根深い対立感情が存在する。そして、民族的にも対立刷る関係にあるのだ。距離が離れていればまだしも、隣国同士の場合には色々な問題の火種になるのである。

この対立構造が印パ戦争(第1次:1947年~1948年、第2次:1965年、第3次:1971年)を引き起こす結果となる。余談ではあるがバングラディシュがパキスタンから独立したのもこの時(1972年7月)である。

 ―近隣国の反応は。  

パキスタンは最大の受益者だ。戦略的にタリバンと最も近い関係にあり、常に強く支援してきた。重要な戦略的勝利と言える。

「時事通信”タリバン、抑圧の実態変わらず 「受益者」はパキスタンと中国―英専門家”」より

時事通信がこんな一言、「パキス弾は最大の受益者だ」という説明だけで片付けようとしているが、ターリバーンの勝利がパキスタンの利益に繋がるということの意味は、イスラーム勢力を拡大したという意味でもあり、支那と手を組む勢力を拡大したという意味でもあり、インドに対抗する為の仲間が出来上がったという意味でもあってなかなか複雑なのである。

軍統合情報局(ISI)

さて、パキスタンの話を出したのは、パキスタンの諜報機関ISIがターリバーンの関係組織であるということにも関係している。

ISIは英領インド帝国の情報部、即ちイギリスのMI6(現SIS)の流れを汲んだ組織であり、パキスタンの陸軍・海軍・空軍の情報機関を統合して成立(1948年)している。んでもって、このISIはソ連のアフガニスタン侵攻(1979年)が起きるとアメリカのCAIとも手を組むことになり、ムジャヒディーン(ジハードを遂行する者の意味で、イスラーム教による連携した民兵のことを指す)の支援に乗り出す。

ムジャヒディーンの話は前の記事にも書いたが、ムジャヒディーンの精鋭達が後にターリバーンのという組織を作り上げるのである。そしてその後ろ盾になったのがISIという組織で、80年代にISI長官を務めたハミド・グルが「ターリバーンのゴッドファーザー」と呼ばれていたという事実もあって、名実共にISIはターリバーンと深い関係を有している。またここからアルカイーダが誕生していることを考えると、アメリカにとっては皮肉な話だね。

ともあれ、パキスタンとアフガニスタンは非常に関係の深い地域であり、ターリバーンの立ち位置を考えるとまた実に厄介な事になりそうである。

支那の事情

さて、前回の記事で、支那は一帯一路構想を持ちかけてアフガニスタン(ターリバーン)に資金供与を行っている可能性が高い点に関して言及している。

ただ、その事もなかなかに重要なポイントではあるのだが、他にも様々な理由があって支那は支援せざるを得ない状況もある。

タリバンが米中の力関係を逆転させる

8/15(日) 0:34

アフガニスタンにタリバン政権が誕生するのは時間の問題だろう。米軍撤収宣言と同時に中国とタリバンは急接近。一帯一路強化だけでなく、ウイグル問題のため習近平はアルカイーダ復活を認めないだろう。となると、アメリカができなかったことを中国が成し遂げ、中国が世界の趨勢を握ることにつながる。

「yahooニュース」より

このコラムは面白いが、個人的にはあまり内容には賛同していない。とはいえ、参考になる部分があるので引用させて貰った。

支那の外相、王毅氏とアフガニスタンのタリバン政治委員会のバラダール議長が7月28日に会談をした事実は、今回のこの事にも大きく関わって居るという分析が為されている。

そういう事を考えると、バイデン政権は、この動きを事前に察知できず手を打つ事のできなかった実に動きの鈍い政権であるという感想を持つわけだが、それはまあさておこう。

―中国はどうか。  中国も潜在的な受益者だ。中国はタリバンと関係と対話を確立するのが極めて早く、また、それは主にパキスタンの仲立ちで実現した。中国はアフガンに多大な投資をし、巨大経済圏構想「一帯一路」につなげたがっている。中国は一方で、アフガンがテロの温床になり、隣接する新疆ウイグル自治区に波及することを懸念し、そうしたことが起きないようタリバンに求めている。

「時事通信”タリバン、抑圧の実態変わらず 「受益者」はパキスタンと中国―英専門家”」より

興味深いことに、冒頭の記事ではターリバーンが支那に対して「テロの輸出」をしてウイグル人達を焚き付けるのを防ぐ効果について指摘がなされている。

yahooニュースにもこの点が指摘されている。そして、図解されたこの地図が分かり易い。

yahooニュースの図をお借りしているが、赤丸で囲まれた地域が支那にとって影響力を行使し得る地域であり、緑丸で囲まれた地域もある程度支那からの影響力を行使可能なので、そこで唯一抜けていた地域、アフガニスタンがターリバーンの手に堕ちたことは、支那にとっては非常に大きな意味がある。

その上で、アフガニスタンはウイグルにも影響がある地域である。

アフガニスタンも主としてスンニ派で、これまでは新疆からアフガニスタンへ逃げるウイグル人がおり、それが過激派集団に取り込まれていたという噂が絶えなかった。そのため「テロ鎮圧」を口実としてウイグル弾圧を強化してきた中国としては、タリバンと仲良くすることは非常に都合がいいのである。

なぜなら後述するように、タリバンは和平合意で「アフガンをテロの温床にしない」と誓っているからだ。

「時事通信”タリバン、抑圧の実態変わらず 「受益者」はパキスタンと中国―英専門家”」より

見方によっては、アフガニスタンをテロの温床にしないためにも、支那はターリバーンに支援せざるを得ないとも言えるわけだ。ウイグル独立の動きが国際的なうねりになれば、それこそ支那に大打撃だからである。

毛沢東思想

さて、ターリバーンの支援を支那する理由はもう1つあると思う。それは、支那皇帝の習近平氏が毛沢東思想の心棒者であることと関係している。

中国トップ経営者がハマる「毛沢東思想」

2013/04/25 6:00

~~略~~

任氏が創業したとき、北京や上海などの大都市では欧米系の通信会社にマーケットは完全に押さえられていた。このときに任会長が対抗策を考えつく発想の源になったのが「農村から都市を包囲する」という毛沢東の人民戦争理論だった。

「東洋経済」より

毛沢東思想に説明される「農村から都市を包囲する」という行動原理は、習近平氏がまさに実戦しようとしている戦略でもある。

世界の“農村”から“都市”を包囲 中国デジタル企業のアフリカ進出

2020年09月15日

中国のデジタル企業が、アフリカ内をはじめとする発展途上国に続々と進出している。これは、中国共産党がかつて政権獲得に成功した「農村から都市を包囲する」という戦略を彷彿(ほうふつ)とさせるものだ。中国企業がマーケティングを展開する際の軸の1つにもなっている。

「日経XTREND」より

そして、それを国レベルで実現したのがターリバーンなのだ。まさに農村から都市を包囲して首都カブールに乗り込んだ。この侵略は武器主体では行われず、実にスピーディーに実現された。

習近平氏にとっては、「良くやってくれた」という話である。

その事だけで習近平氏がターリバーンに手を貸す気になったとは思わないが、思想に賛同出来るかどうかは重要なポイントである。

尤も、イスラームの教えは中華思想に馴染まないので、決定的に袂を分かつ結果を迎える可能性は高いが、当面は手を結ぼうという気になる理由くらいにはなっただろう。

アフガニスタンの今後

民主制を否定

さて、ターリバーンが実権を握るアフガニスタンは、今後どうなるのかと言えば、少なくとも民主制に移行することはないようだ。

タリバン幹部、民主制を否定 「アフガンに土台なし」

2021年08月19日10時37分

アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は、新たな政治体制について「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と語った。ロイター通信が18日に伝えた。2001年のタリバン政権崩壊後、民主制に移行したアフガンの政治体制が大きく変わる可能性がある。

「時事通信」より

皮肉にも、アメリカがアフガニスタンで成功しなかった理由がターリバーン幹部によって説明されている。アフガニスタンには、民主制の土台がないのである。アメリカの民主主義をアフガニスタンに押し付けようとしてもうまく行くわけが無いのである。

アメリカは何度同じ失敗をすれば気が済むのだろうか?アレも一種の宗教なのかも知れないが。

ともあれ、ターリバーンの行動原理はイスラームの教えに基づくものであり、政治もそれに沿った形になる可能性は高い。ただ、その「教え」も彼らの勝手な解釈なんだよね。

タリバン、女性へのブルカ強制を否定 ヒジャブは必要に

2021年8月18日 9:25

アフガニスタンを制圧した旧支配勢力タリバンは17日、女性に対し全身を覆う衣服「ブルカ」の着用を強制しない方針を示した。タリバンは旧政権時代には、ブルカ着用を義務付けていた。

~~略~~

タリバンの権力掌握を受け、世界各国や人権団体の多くは、アフガンの女子教育の行方に懸念を示してきた。だがシャヒーン報道官は、女性にも初等教育から大学を含む高等教育までを認めると強調。タリバンが制圧した地域では現在も、数千の学校で授業・講義が行われていると主張した。

「AFP」より

女性の権利について、ターリバーンは「認める」方針に言及している。が、これもどうなるかは分からない話。なにしろ、そもそもターリバーンは一枚岩の組織では無いし、部族主義の支配する構造になっている。

唯一、イスラームの教えの元で団結するとはしているが、このイスラームの教えもかなり地域性が強い。彼らにとっては部族単位で考え方、主義主張が異なるのが当然なので、イスラームの教えに対する姿勢だって、プロテスタントとカソリックくらいは違う。津軽弁と大阪弁くらいには差があるのだ。

そして、パキスタンのISIからの影響なども加味していくと、今、ターリバーンから方針が明示されたからと言ってそれが実現されるかは分からない。

ターリバーンも随分と世代交代をして、宣伝工作に随分と力を割くようになったので、どのようなやり方を選択するかは分からないが、世間受けし易い印象操作くらいはやってくるだろう。

資金源は麻薬

そして、余り問題視されてはいないようだが、ターリバーンのお得意な産業が問題である。

ケシからヘロインへ、タリバンが麻薬の生産に進出 アフガニスタン

2017年8月27日 19:25

アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは、自分たちが支配していた時代にはアヘンなどの原料であるケシの栽培を禁止していたが、今では戦火で荒廃した同国のヘロイン生産に支配的影響力を及ぼしているとみられ、反政府活動の資金源としているという。複数の当局者がAFPの取材に対し話した。

「AFP」より

ターリバーンの資金源は、麻薬製造なのである。世界のアヘンの8割が生産されているのがアフガニスタンだと言われており、その生産者はターリバーンが主体になっていると言われる。アフガニスタンの農業生産物全体の半分がアヘンだというから呆れるしかない。

欧米諸国のある高官もまた、タリバンが南部ヘルマンド州に自らの工場を持っていると確信しており、アフガニスタンのケシの80%が栽培されているという同州のことを、「巨大な麻薬工場」と表現し、さらに、「ヘルマンドといえば、麻薬、ケシ、タリバンだ。タリバンの資金源は大方、ケシとモルヒネ工場、ヘロイン工場だ。もちろん彼らは自らの工場を持っている」と話した。

「AFP」より

そして、巨大な麻薬工場は健在で、これがどこに輸出されるかというと、アメリカ、ロシア、支那という話になってくるから厄介である。

これまでは非合法にこうした麻薬製造をやっていたが、これからは合法的にアフガニスタン国内にて麻薬の製造が行われていくことだろう。それを取り締まる組織はアメリカ軍撤退と共に不在となるため、今後一層荒れる可能性が高い。

支那が手を伸ばした背景には、そうした事情も絡んでいると思われ、そしてパキスタンがねぇ。

アフガン情勢を注視、パキスタンへの影響判断は時期尚早=IMF

2021年8月13日7:43 午後

国際通貨基金(IMF)の報道官は13日、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが国内の都市を制圧していることについて、状況を注視しているが、隣国のパキスタンに経済的な影響が波及するか判断するのは時期尚早だと述べた。

パキスタンはIMFの支援を受けている。

「ロイター」より

パキスタンは現在IMFのお世話になっている状況だが、これがどう絡んでくるのか。IMFは注視するといっているけれども、良くも悪くも影響はあるだろうし、積極的に関与していく可能性が高いのである。

そもそも「アフガニスタン」という国が存在するように扱ってはいるが、その実彼らの意識は未だに部族単位より大きく逸脱するものではないようだ。つまり国家として何か約束をしたり、責務を果たしたりと言うことは期待ができない。

偉大なる指導者でも出現すればまた話は別なんだろうけれどねぇ。

コメント

  1. 木霊さん、おはようございます。

    タリバンのバックはパキスタンなのは判っていましたが、支那が受益者として強力に接触しているのは最近の事なんでしょうかね。

    確かに一帯一路のど真ん中を突き抜けれるし、支那の野望と一致していますけど。
    しかし、ウィグルに対する苛烈なジェノサイドという大きな棘と、果たして一緒に飲み込めるんでしょうか。
    地図を逆に解釈すると、同じスンニ派のアフガニスタン&パキスタン→ウィグルがど真ん中で繋がってモロに支那に対抗できる訳ですから。

    いくら今テロの温床にはしないと約束しても、一枚岩でないタリバンの超過激派がどんな動きをするかは、逆に支那がウィグルに対する政策転換がないと過激化する可能性もあります。

    とはいえ、現実的にインド西側全てのイスラム圏(イランとは不仲らしいけど)が支那の手中に入る感じですし、インドは完全に囲まれちゃいますね。
    インドも密かにタリバンとコンタクトしているとかのニュースもチラホラ...。

    欧米西側各国にとっても体制再編は必要でしょうけど、こんな時に必ずちょっかい出すのが狡猾なロシアですから、NATOは難民流入に加えて東の守りも気を抜けません。

    日本が留意すべき問題は支那の東アジア野望への影響かな。(尖閣・沖縄・台湾)
    こんな時こそファイブアイズの情報&諜報を共有し、より精緻に分析できる体制を構築できてないのが本当に残念です。

    • 支那がアフガニスタンに食指を伸ばし始めたのは、やはり近年になってからだと思いますよ。
      アメリカが資金提供をしながらターリバーンを育ててしまった裏で、根強い反米勘定があることを知って、接触を図ったのでしょう。
      習近平氏が実権を握ってから、という感じなのかなーと予想していますが、何を調べたら本当のところが分かるのか。

      インドとアフガニスタンは宗教上の理由でなかなか結びつかないでしょう。
      アフガニスタンと支那だって利用し会う関係であって、なかなか手を携えてというわけには行かないでしょう。
      イスラーム諸国はいろいろな意味で厄介だと思いますよ。

  2. アメリカはなんでこうも退きかたが下手。なんでしょうかね…まぁこれが中共やソ連なら、撤退は焦土作戦で。に、なっちゃうんでしょうけども。
    半端な善意が大きな禍根を残す。アメリカという一国家が、何故遠い中東くんだりで、無駄にピンポイントに恨まれてるのか。その理由の一端が垣間見えた気はします…
    さておき、タリバンと中共の話については、今現在の都合はともかく、将来的な相性は最悪では?な、予感しかしないと言いますか…よりにもよって麻薬産業かぁ中国とかー…てあたりも引っかかるとこといいますか…いや、中共としては西洋を麻薬漬けにし返したい怨みもあるでしょうし、意外と合致するんでしょうか、ね?

    • アメリカが見事撤退してみせた事例というのは、寡聞にして聞きませんからねぇ。
      敢えて言えば、沖縄からの撤退なのでしょうが……、基地はそのままですからあれも撤退できたかどうかは微妙な感じです。

      そして、ご指摘のようにターリバーンと支那との関係というのは、宗教上相容れないものがありますから、早晩破綻することは目に見えています。
      わかりやすい敵がいるうちは或いは大丈夫かもしれませんが。