本年度初の記事をどうしようか?と悩んだのだけれど、憲法改正に触れて行きたいと思う。
通常国会 国民投票法の改正案 採決めぐる攻防へ
2021年1月3日 6時37分
国民投票法の改正案をめぐって、自民党は、議論は尽くされたとして、通常国会で成立させ、改憲論議を前進させたい考えです。一方、立憲民主党は、改正案にはまだ問題があり採決は時期尚早だと主張していて、採決をめぐる攻防が展開される見通しです。
「NHKニュース」より
憲法改正の議論の時に、いつも不思議に思うのは、「時期尚早」という判断である。70年以上も改正をしていない憲法のメンテナンスに、何故未だに「時期尚早」なのかがよく分からない。
国民投票法
憲法改正の為の法律
さて、冒頭のニュースは、実は憲法改正そのものの議論ですらない。
実は国民投票法の改正案である。
実は憲法改正の要件として第96条1項にこの様に定められている。
第九十六条
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
この要件は極めて重く、各議院の総議員の2/3以上の賛成を得ることと、国民投票を行って過半数の賛成を必要とする必要があるとされている。
<衆議院> :2/3=310人

<参議院> :2/3=163人

緑色の自民党の定数に加えて現状では与党と位置づけられている公明党の数を加えると、衆議院で282+29=311人、参議院で142+28=142人である。安倍氏の存在であれだけ大勝した状況にあっても、与党で両院2/3が確保出来ないのだ。
もちろん、改憲勢力と言われる野党の日本維新の会16人や無所属7人などを巧いこと説得できれば、現状でも可能性はあるのだが、それでもこの時点でかなりハードルが高い。
しかし、国民投票の法は更にハードルが高く設定されている。何しろ、「過半数」とあるのだが、これは有効投票数の過半数とされているのだが、反対派が組織的に動けば簡単に潰されてしまう。
国民投票法の改正案は、憲法改正の是非を問う国民投票の利便性を高めるため商業施設に投票所を設けることなどが柱で、2018年6月に与党と日本維新の会などが提出しました。
「NHKニュース”通常国会 国民投票法の改正案 採決めぐる攻防へ”」より
多くの人に投票して貰うことは、憲法改正に不可欠なことなのである。国民的議論を高めることで、憲法改正に関する国民投票の投票率を高めることができるとは言え、利便性を高めることは必要だと思われる。もちろん、方法論は様々なのだが、前向きに方法を検討するのは政治家の義務だと言えよう。
それを反対するということ自体、意味がよく分からないのである。
この国民投票法の改正ですら、国会が8回開催されて審議されてなお結論を出せていないというのだから、呆れてモノが言えない。
憲法改正が急務な理由
憲法9条の改正が急務
さて、具体的な憲法改正の内容について、一番の激しい攻防が為されているところは憲法9条の改正である。
そのうえで、自民党は「自衛隊の明記」など、党の4項目の改正案をもとに具体的な改憲論議を前進させたい考えです。
「NHKニュース”通常国会 国民投票法の改正案 採決めぐる攻防へ”」より
自民党もその事は意識しているようだが、党内でも激しい攻防があるようだ。しかし、前総理の安倍氏が「自衛隊の明記」を言及したことで、ある程度の方向性は決まっている模様。即ち、憲法改正によって自衛隊の存在が合憲である点を明らかにするという方向だ。
このブログでも折に触れて憲法9条の改正について言及しているが、2年前のこちらの記事で若干触れている。この時の記事では、アメリカ大統領のトランプ氏の発言を引用して、そもそも日米軍事同盟の内容すら履行できない、という状況が問題であると、その様に指摘した。
一応、コチラの記事でも言及したように、自国の利益の為に有志連合軍に参加することにすら問題があるという状況になっていることも問題視される。
今や、憲法9条の存在によって自国の防衛すらままならないような形になっている。
端的に指摘すれば、現状において自衛隊単独で、国防を担当するという体制には現在の自衛隊はなっていない。情けなくも悔しくも、自衛隊は米軍の存在無しには自国の防衛すらままならないのである。これは憲法9条の存在があり、「軍隊を保有できない」という意味の分からない状況を作り出し、国防費をそこに割くことも難しくなっている。
国防そのものは憲法9条に抵触しないという「解釈」は存在するが、明文化はされていない。その事が問題なのだ。
更に問題なのは、個別的自衛権はOKだが集団的自衛権はNGというような解釈があり、これは国連憲章を見ても明らかに各国固有の権利なのだけれども、それに制限が課せられているような理解であることも問題である。
つまり、固有の権利である自衛権は「当然に保有している」という点を確認したい、それだけのことで、異議が出ないように明記すべきだと、それだけの話なのだけれど……、おかしな事に揉めている。これに関して議論するつもりはない。「自衛権を妨げない」それだけのことなのだ。
「国家をどのように防衛するのか」という点が、日本国憲法には一切触れられていないというのは、憲法の明確な欠陥なのである。
緊急事態条項がない
更に問題なのは、現在の日本国憲法には緊急事態条項が存在しない。
この事が問題になったのが、去年1年間に大騒ぎした武漢ウイルスに関する話で、それ以前には3.11の災害対応が後手に回った理由にも関連する話。
即ち、ロックダウンが必要な状況になっても、強制力を伴った法的根拠を憲法に求められない状況になっていて、寧ろ、法的に緊急事態に対応する定めを作っても、憲法違反になる可能性があるというのだから話にならない。
災害対応に関しては、日本においては例えば個人所有の自家用車を、緊急時においても移動させることができない。津波が来て放棄された車両であったとしても、自衛隊も消防も行政も撤去する権限を持たない。例えば個人所有の土地があって、そこが津波によって何もなくなった状況であっても、境界線の特定が先で、その場所を緊急的に使用する事はできないのだ。
7日緊急事態宣言 前回とどう違う?
2021年1月5日 21時28分
新型コロナウイルス対策で、政府は、首都圏の1都3県を対象に7日、緊急事態宣言を出すことを決める方針です。 経済への影響を最小限に抑えたいとして、限定的な措置を講じることにしています。 今回の宣言は私たちの生活にどのように影響するのか、これまでの情報をもとにまとめました。
「NHKニュース」より
もちろん、今回、発出することになった緊急事態宣言も同じだ。法的根拠は「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」とされているが、この宣言は憲法に違反する疑いがある。何故ならば、私権の制限を行うからであり、これで何らかの損害を被った場合に保障される根拠も無い。
緊急事態宣言とは 休業要請などに法的根拠
2020年7月28日 2:00
▼緊急事態宣言 改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づいて政府対策本部長の首相が出せる宣言。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために出す。発令する場合は対象地域や期間の指定や国会への報告を義務づけている。宣言がなくても都道府県知事は外出の自粛や休業を要請できるが、宣言が出た場合は対象地域の知事は明確な法的根拠を持って住民に要請できる。
「日本経済新聞」より
これは2020年7月の記事なのだけれど、この時点で既に問題点はハッキリしていたはずなのに、半年以上時間が経過しても何ら手当が行われていないことは、政治家の怠慢であることは明白だ。
これが規定されていないことも明確な欠陥である。
憲法96条の改正
そして、冒頭の記事に関係してくる憲法改正に関する96条の改正についてだ。憲法の改正そのものが非常にハードルが高くなっていることで、不具合がメンテナンスできない状況となっている。
日弁連も憲法改正手続きに関する憲法96条改正に反対しているが、この理由がなかなかである。
また、現在の選挙制度の下では、得票率が3割に満たない政党が議院の過半数の議席を占めることもあり得るため、発議要件が緩和されると、国民の多数の支持を受けていない憲法改正案が容易に発議されてしまう可能性もあります。
発議要件の緩和は、国家権力が憲法の縛りを解くために簡単に憲法改正を発議することを可能とするものであり、立憲主義と人権保障の観点から、許されないと考えます。
「日弁連サイト」より
確かに「人権保障の観点から簡単に憲法改正されては困る」という理由は説得力があるように思われるが、しかし、現行憲法が完璧に人権保護をしているとはとても言い難い。逆に、人権保護のために憲法改正が必要である場合であっても、反対勢力の抵抗によってそれが成されないリスクがあるのだ。
「そんなことにはならない」と言われる方もいるだろうが、しかし考えて見て欲しい、前出の憲法9条改正がまさに国民の命を守る為の力を放棄するという内容なのだから、人権保護の観点から適当では無いのである。既に問題が存在するのだ。
憲法改正のためのハードルが高すぎるのというのもまた問題で、少なくとも国民投票法の改正くらいは直ぐにでも取りかかるべきなのである。
環境保護という観点
個人的には反対ではあるのだが、議論される内容の1つとして「環境保護」という概念が憲法に盛り込まれていないことは、問題視する方もいる。
これに関しても議論の必要はあるのだろう。深く言及することはここでは止めておくけれど。
これに加えてプライバシー権に関しても、その根拠となる条項が存在しないので、憲法改正が必要な内容だという風に言われている。
国民の義務に関する言及が少ない
これは「緊急事態条項」とも関連する話なのだけれども、国民の義務に関しての言及が少ない事も問題だと言われている。
「教育の義務(26条2項)」「勤労の義務(27条1項)」「納税の義務(30条)」と、国民の三大義務とされているのはこれだけ。
憲法学者の中での通説としては、憲法は国(政府)を縛る為のものであるため、国民に義務を課すのはオカシイという事になっているが、外国の憲法では、国民の義務について言及されているものも多く、この考え方も不可思議である。
実は、現在の我が国のように自由と民主主義に立脚する体制をとる国の憲法に勤労が国民の義務として規定されているのは異例なのです。
勤勉を尊ぶ国民性もあって「勤労の義務」に疑問を持つ人は少ないかもしれません。しかし、自由主義の体制では、納税の義務が規定されればよく、どのように収入を得るかは自由でなければならないからです。
「産経新聞”第27講 「国民の三大義務」の不思議 八木秀次先生”」より
この記事は、法学者の八木氏が講義するスタイルでの憲法解説なのだけれど、この様な考えがあるという理解で呼んで頂ければ良いと思う。
この八木氏によれば、勤労の義務を国民に課すというのは異例で、社会主義の国でなければこの様な規定を設ける理由は無いとしている。なるほど、「金があれば働かなくて良い」というのは日本人の価値観には合わないが、合理的ではないよね。しかしこの事は、個人的には日本国民の特色の1つとして憲法に定めがあっても良い様に思う。
一方で、国防の義務は日本国民に負わされていない義務であり、これが欠如している点は問題であるとされている。
他の国の憲法には勤労の義務の代わりに「国防の義務」が規定されています。これがないのも日本国憲法が異例である点です。
「産経新聞”第27講 「国民の三大義務」の不思議 八木秀次先生”」より
国防の義務が明記されていないからこそ、憲法9条において「国防」を否定する内容があってもそれを否定する根拠を他に求める(国連憲章など)というアホな事になるのであって、これが欠落していることは問題だと言える。
そして、国防の義務が明記されていれば、緊急事態に関する法律の根拠となるということもあって、この義務の明記というのは必須であると思われる。
……まあ、国防の義務などを規定すると、徴兵制の復活などというアホな話に繋がるだけに、なかなか明記する事が難しいのは事実なんだけどね。
そもそも、憲法に規定される基本的人権というのは、国家が存在してこそ実現し得るものなのだ。故に国家を守る義務は当然に国民に生じるはずなのであって、これを明記するのは「当たり前」過ぎて、という話ではあるのだが、書かれていないことそのものは問題で、根拠として明記することで、様々な法律にも影響することを考えれば、書くべきだと、そう思う訳だ。
スパイ防止法の制定に関しても、これに関する話になってくるように思う。
ただただ反対する野党
そういったことを考えると、憲法改正は当然に行われるべきであり、野党で会っても議論に参加すべきなのだ。政治家であって立法に関与しないというのは、「仕事をしない」というのと同義である。そんなヤツを当選させることは国民にとっておかしな事である。
その事を、理解できない方々のなんと多い事か。
もちろん、現在、大きな権力を持っている自民党であっても「信用出来ない」と思っている人は多い。だが、「だから憲法改正にも反対」というのはどうだろうか?
国民民主・玉木雄一郎代表に聞く「反対だけでない野党に」
2020.10.6 20:05
~~略~~
--年内に憲法改正草案をまとめる
「食糧・エネルギー自給率、地方の自立性、憲法裁判所など、体系立てて数十条の草案にまとめる。党内議論は公開し、多くの国民に参加してもらう。国会内外で論議を活性化したい」
--安全保障関連法の廃止を目指すのか
「廃止は無理だ。運用の現状をみて問題があれば法改正する。尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領域警備や宇宙・サイバーなど足らざる点を埋める現実的な安全保障政策を提案したい。『過不足のない自衛権行使』が重要だ」
「産経新聞」より
流石にそのことに気がついた国民民主党代表の玉木氏だったが、憲法改正案の議論は煮詰まっていないようだ。
立憲、独自路線の国民民主けん制 憲法審めぐり主導権争い
2020年11月12日07時08分
今国会で実質的に初めての衆院憲法審査会が19日に開かれることが固まった。自民、立憲民主両党の国対委員長が合意した。立憲は改憲論議に消極的だが、野党側の国会対応を主導することを明確にし、独自路線が目立つ国民民主党の動きをけん制する狙いから自民党の提案に応じた。
「時事通信」より
なんと野党同士で主導権争いをしながら、改憲反対派の影響を受けて意見を纏めきれないでいるのである。アホらしくてため息も出ない。
結局、国民民主党は方針だけ打ち出してお茶を濁したようだが、データ基本権という概念を盛り込んだことは評価したい。
過去のブログで日本維新の会が示した改正案について突っ込みを入れたことはあるが、憲法改正に一定の理解があるのはこの2つの政党のみ。その他は「反対、反対、絶対反対」である。もうアホかと。
今年こそ、憲法改正の議論がまともにできて改正に至る事ができること、を新年初の記事で触れて、今年の願いということにしておきたい。
追記
えーと、早速、「反対」のニュースが。
立憲、特措法罰則に慎重 共産反対、維新条件付き賛成
2021年01月04日17時43分
立憲民主党の枝野幸男代表は4日、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案に事業者への罰則を盛り込む政府の方針に対し、休業要請などを念頭に「倒産や事業が継続できなくなることを罰則付きで命じるのは財産権の侵害にもなりかねない」として慎重に賛否を決める考えを示した。国会内で記者団に語った。
「時事通信」より
罰則がないから効果がないと散々文句を言った上で、特別措置法改正という話が出てきたらコレである。財産権の侵害って、私権を制限するのだから当然そうなるよね。その分だけ補償してという主張だった記憶があるのだけれど、ダメなのかね。
だが、それよりも共産党の言い分がスゴい。
共産党の志位和夫委員長は党本部で記者団に「賛成できない。警察国家になる心配もある」と述べ、反対の立場を明確にした。
「時事通信”立憲、特措法罰則に慎重 共産反対、維新条件付き賛成”」より
警察国家……?
いやもう、なんというか反対のための反対というのはどうなのよ。
追記2
あと、コレについて言及していなかったが……。
1月9日から1カ月程度を検討 緊急事態宣言
2021年1月4日 月曜 午前11:42
菅首相が「緊急事態宣言の再発令」を決断した背景について、国会記者会館から中継で、フジテレビ政治部・千田淳一記者が伝える。
菅首相の本音は、経済への影響が大きい緊急事態宣言の発令は避けたかったが、感染者が減少すると見込んでいた年末年始に急増したことで、一気に宣言の再発令にかじを切った。
政府は、感染拡大防止には、緊急事態宣言よりも飲食店の営業時間短縮が有効だと考えていて、2020年12月中旬、東京都の小池知事に対し、午後8時までのさらなる時短要請を求めていた。
しかし小池知事が、これに難色を示す中、大みそかには、東京の新規感染者数が1,300人を超えた。
今回、東京都は、時短要請を行う方向で調整に入ったが、政府高官が「先月、小池知事が時短要請に応じていたら、こんなことになっていなかった」と不満を吐露するなど、政府と東京都の連携不足が感じられる。
政府は、18日に召集予定の通常国会で、緊急事態宣言などを定めた新型コロナ特措法を改正する方針だが、菅首相は周辺に対し、「それまで待ってはいられない」と話している。
「FNN」より
結局、現在の法制度設計で考えると、基本的には地方自治体の首長が大きな権力を握っている。首長を飛び越えて政府が命令を下すような構造にはなっていない。
良く、「地方自治の裁量の範囲は少ない」「3割自治だ」と言われるが……、これは政府からの予算配分に絡んでの話であって、予算さえ確保出来ればかなり大きな権力行使ができる。現実は財源がないのでそれは不可能なのだけれど。
そういう意味で、小池氏が拒めば東京都における政策は、政府が口を挟む余地はなかったのだというのが現実であって、その弊害が今回現れた、という事でもある。
もちろん、政府の介入は最小限に留めるべきではあるが、国防においてはその限りではない。そこの手当ができていないことが深刻な問題を引き起こしかねないとも言える。沖縄の基地問題はまさにその典型である。
中央政府と地方自治体のパワーバランスは、有事とそれ以外では調整可能な構成とするのが当たり前の話なのだが、それができないのが日本の現状である。
コメント
菅内閣に逆風というか暗雲が漂いつつあり、日本にとって最重要な「憲法改正」まで話が進むかとても心配しています。
憲法改正は決してタブーではなく時代に合わせて改定されるべき事案、世界でも頑なに9条を堅持しているのは日本だけでしょう。
僕は憲法の前文を読む限り9条改定は可能という考えです。
やはり、選挙で返り血を浴びてでも公明党&媚中派を切るべき...、今こそ真摯に国民に国の危機を訴え改正の成否理由を問うべきと思いますね。
重くて長いテーマですから、国民一人一人が真剣に考えて欲しい。
憲法改正は是非やって欲しいですね。
それこそが古い体制の打破に繋がるのですから。
いつまでも古いものを使い続けるためにはメンテナンスが必要だということを、改憲反対派のみなさんは理解できないのでしょうかね。