価格だけじゃないイージス・アショアの代替案

防衛政策

朝日新聞が、「高額だ」と問題視しているイージス・アショアだが。

アショア代替、最低1900億円 最も高価な洋上装備に

2020年11月24日 16時00分

陸上配備用の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を、洋上で転用する導入コストの試算が関係者への取材でわかった。護衛艦、民間船、オイルリグ型(油井を掘るやぐら)の洋上3案は約1900億~約2800億円超にのぼり、いずれも既存の最新イージス艦(約1700億円)より高額となる。どの案に決まっても、自衛隊史上で最も高価な洋上装備となる見通しだ。

「朝日新聞」より

中身を丁寧に読んでみようかな。時間の無駄にならなければ良いのだけれど……。

スポンサーリンク
同カテゴリーの人気記事

この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

<同カテゴリーの人気記事>

スポンサーリンク
スポンサーリンク

イージス・アショアを取り巻く問題

MD構想

さて、朝日新聞の中身を読む前に、少しおさらいしておきたいと思う。

この2つの記事に紹介しているのだけれども、ザックリおさらいしておきたい。

迎撃イメージ

先ずは、ミサイル防衛構想(MD構想)だが、基本的には北朝鮮からのミサイルを迎撃するという建前のシステムであり、ロシアや支那からミサイルを撃ち込まれた場合にも対応出来るとしている。図に示したように、イージス艦と地上の中SAM改良版及びPAC3の3段階での迎撃を予定している。

ただ、ミサイル防衛はミサイルの迎撃を目的としているけれども、撃ち込まれるミサイルの数が多くなると対応出来なくなるリスクはある。もちろん、日本本土に着弾しそうなミサイルを選んで迎撃すれば、それだけ被害を減らすことに貢献できるので無駄だと言うことにはならない。しかし、ミサイル防衛だけで良いと言うことにはならない。

それと、軌道が変動するタイプのミサイルの迎撃は技術的に困難性が高く、更に現在実用化されつつあるという音速を越える速度で飛来する超高速のミサイルの迎撃は非常に困難であることが分かってきている。

つまり、既にMD構想だけでは日本の国土を守れないことが明らかになってきているのである。

イメージ図02

ただし、迎撃だけではなく探知の性能も含めて考えると、探知範囲の広いSPY-7レーダーを備えたイージス・アショアの導入には意味があると言える。

多機能レーダーSPY-7には使用実績がない

さて、正式にはAN/SPY-7(v)1というロッキード・マーティン社の開発しているシステムなのだが、現段階ではハワイ州に設置されるイージス・アショアに採用される予定があることと、アラスカ州で2020年に配備される予定がある。

他に、カナダ海軍及びスペイン海軍にもAN/SPY-7(V)1の派生型が適用される予定である。

……つまり、今までにAN/SPY-7(v)1レーダーが運用された実績は無く、システムとしても未完成であるという事になる。

ところが、イージスシステムはロッキード・マーティン社の専売特許というわけではなく、現在のアメリカ軍艦艇で採用され始めているAN/SPY-6(V)系のシステムは、レイセオン社が納入している。

ロッキード・マーティン社は、AN/SPY-1系とAN/SPY-7系を提供し、レイセオン社は、AN/SPY-3系とAN/SPY-6系を提供している。この辺りの違いに関してはこの辺りの記事が参考になると思う。

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

なお、AN/SPY-2は可搬型監視レーダーとしてレイセオン社が、AN/SPY-4は開発中止に、AN/SPY-5もレイセオン社により開発されたという報道を見かけたが、採用されたという話は聞かない。

つまり、開発されたからといって使用されるとは限らないので、ナンバリングには開発された順番程度の意味しかなないと理解した方が良さそうだ。

そして、AN/SPY-1系のレーダーも艦艇に採用された実績があるが、AN/SPY-1系のレーダーの方が探知能力が高いため、今後新たにAN/SPY-1系のレーダーを採用するメリットは薄く、順次、AN/SPY-6系のレーダーが。AN/SPY-7系のレーダーはLRDR(Long Range Discrimination Radar:長距離識別レーダー)とも呼ばれ、その探知範囲と同時対処能力などはAN/SPY-6系よりも優れているとされている。運用実績は無いけどね。

さて、じゃあ実績のあるAN/SPY-6系の採用をすれば良いのか、というと、これまたちょっと難しい。というのは、2013年頃に開発されて採用が始まったのは2015年以降ということになっていて、当面はアメリカの艦艇のレーダーの更新の予定が詰まっている。今からそこの列に並んでも、実装は当面先という事になりそうだ。

ベースライン

ちなみに、SPY-6やらSPY-7やらはあくまでレーダーであって、武器システムに関してはまた別の話となるので少しややこしい。

これはWikipedhiaのイージスシステムを示すブロック図で、多機能レーダーと組み合わせて指揮決定システムや武器管制システム、射撃管制システム、ミサイルランチャー、スタンダード艦対空ミサイル、イージスディスプレイシステム、自己診断システム、即応性保持システムなどからなると説明されている。

これのシステムのバージョンの区別をベースラインという言葉で区別している。現在、ベースライン0から始まってベースライン9まであるのだが、現在建造されているアーレイ・バーク級フライトIIIでは、ベースライン10が搭載されることが予定されている。

この他にもモデルナンバーというものが存在するのだが、ここでは説明を割愛したい。

日本政府は新たなイージス艦を建造する方向で舵を切った

コストは2800億円超?でも価格だけの問題なのか

さて、そろそろ冒頭の記事に戻っていきたい。

護衛艦、民間船、オイルリグ型(油井を掘るやぐら)の洋上3案は約1900億~約2800億円超にのぼり、いずれも既存の最新イージス艦(約1700億円)より高額となる。どの案に決まっても、自衛隊史上で最も高価な洋上装備となる見通しだ。

「朝日新聞”アショア代替、最低1900億円 最も高価な洋上装備に”」より

冒頭で引用した部分をもう一度引用しておくが、日本政府は、イージス・アショアの建設を断念する!と公表した後に、引用したように3案を提示した。

護衛艦案、民間船案、オイルリグ案である。

これは少々誤解を含むものだが、敢えてこのまま行こう。

3つの案での洋上3案では何れも約1900億~約2800億円超にのぼるとして批判を加えた上で、一番高価な護衛艦案を選んだとして批判している。

関係者によると、アショアの構成品を転用する洋上3案のうち、①護衛艦に載せて「イージス艦」とする場合は約2400億~2500億円超②民間船は1900億~2千億円超③リグは2100億~2800億円超(いずれも1隻あたりのコスト)。あくまで「現時点で入手可能な情報をもとに試算した規模感で、さらに上ぶれする可能性がある」(関係者)という。

「朝日新聞”アショア代替、最低1900億円 最も高価な洋上装備に”」より

なお、ランニングコストに関しては試算すらされていないとしているが、だったら朝日新聞で弾いてみたらどうだい?

そもそもこのお金の話は、日本の防衛にどんな投資をしたらその投資に見合う防衛力を獲得できるのか?というような観点で論じられるべきである。もちろん、イニシャルコストやランニングコストだって大切なのだが、どうして新聞は「限られた防衛費の中で無駄遣いをするな」という視点でしか物が見れないのだろうか。

足りなければ、防衛費を増やすという事も考えるべきだろう。いつまでもGDP1%枠などという意味の分からない柵みに囚われていては行かないのである。

日本の防衛のために何が必要か?

そもそも、お値段が安いからこっちの方針で、というのはおかしな話で、脅威は既に実在するのであって、その脅威に如何に対応すべきか?という話をしなければならない。

その点で、ミサイル防衛というだけではなくって、敵基地攻撃能力の獲得まで考えるべきであろうと思うし、新たなイージス艦を建造するのであれば、その機能を盛り込むべきなのだ。

イージス・アショア代替策 イージス艦2隻導入で5000億円以上

2020年11月25日 4時36分

新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策をめぐり、新型のイージス艦を2隻導入する場合、4800億円から5000億円以上の費用がかかるという試算がまとまりました。

~~略~~

一方、防御性能や機動性はイージス艦が最も優れ、整備に必要な期間はいずれも「イージス・アショア」と同じ5年ほどとしています。

政府内では、代替策についてイージス艦を増やすことを軸に検討を進めるべきだとする声が強まっていて、防衛省は、25日開かれる与党の会合でこの内容を説明したうえで検討を急ぐことにしています。

「NHKニュース」より

整備に必要な期間は5年ほどというのはかなり怪しい話ではあるが、政府は実現可能性についてはそれなりにあるという風に情報収集した上で判断をしたのだろうとは思う。

ただ、新型のイージス艦を2隻導入します、やったー!で終わってはいけないことは前述した通りであり、もっと言えば陸上に配備するイージス・アショアの断念というのは間違いだと思う。陸上にイージスを配備するメリットは確実にあるし、新型のイージス艦も必要なのだ。

「くまの」と「まや」

さて、イージス・アショアの代替案という切り口で記事を書いてきたわけだけれども、最近の護衛艦のニュースを少々紹介しておこう。

海自の新型護衛艦 防衛費過去最高でもコンパクト化せざるを得ない理由

2020年11月20日 09時00分(最終更新 11月20日 14時37分)

海上自衛隊が導入する新型護衛艦の初めての進水式が19日、岡山県玉野市であった。新型艦は従来の護衛艦よりもコンパクトで建造費や乗組員を減らすことができ、護衛艦数の増加や人手不足の解消につなげる狙いがある。防衛省は将来的に自衛艦隊の主力とする方針で、大型化が進んできた護衛艦はコンパクト化へとかじを切るが、新型艦が向かう大海原は穏やかではなさそうだ。

「毎日新聞」より

珍しく毎日新聞の記事を引用しておくが、新造艦の「くまの」は、3900t級の比較的小型な艦である。そして、記事で指摘されるように、建造費と乗組員を減らすようなコンセプトで作られている。

 防衛省幹部が「第二の課題」とする人員不足も、新型艦の導入で解消したい考えだ。機雷を掃海する水中無人機を活用するなどし、乗組員を約90人と従来の半分に抑える。複数のグループが交代で乗艦する「クルー制」も取り入れ、乗組員の陸上での休養日を増やすとともに艦船の稼働率を上げる算段だ。海自トップの山村浩・海上幕僚長は「新しいコンセプトで造り上げた船。従来の護衛艦でできることをある程度我慢し、マンパワーを抑えている」と語るが、海自内には「大幅に人を減らし、本当に問題なく運用できるのか」と戸惑いもある。

「毎日新聞”海自の新型護衛艦 防衛費過去最高でもコンパクト化せざるを得ない理由”」より

何しろ海上自衛隊では、長時間海上に船員を拘束しなければならないという問題があって、なかなか乗組員の確保が難しいという現実がある。

イージス・アショア案もまさにその観点から模索された話であるので、そういう時代だと言うことなのだ。

海自イージス艦「まや」就役 護衛艦初の「CEC 共同交戦能力」搭載 同盟国同士でリンク

2020.03.19

防衛省は2020年3月19日(金)、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場(横浜市磯子区)にて、護衛艦「まや」の引渡式および自衛艦旗授与式を実施しました。

「自衛艦旗授与式」とは、造船所から防衛省へ引き渡された艦艇の艦(艇)尾に自衛艦旗を掲揚する式典のことで、この旗を掲揚した時点で、「自衛艦」として海上自衛隊の編成に加わります。

「乗り物ニュース」より

一方、3月頃に就役した「まや」と来年3月に就役予定の「はぐろ」はまや型護衛艦と呼ばれるタイプで、AN/SPY-1D(V) をレーダーとして搭載し、ベースラインJ7(ベースライン9C)というシステムを採用している。そして、海上自衛隊で初採用となる共同交戦能力(CEC)を付与した艦となっている。

まあ、「こんごう型」「あたご型」「まや型」とだんだん船体が大きくなる傾向にあるが、方向性としては「くまの」とは別方向だという印象はある。なお、何も決まってはいないがイージス・アショアの代案として用意される新型イージスは、さらに大きくなるんじゃないかと。

佐藤正久氏のtweetが何か参考になるのかな?と思ったけれども、「洋上マルチ機能」というのはちょっと参考になるのかな。1,680億円程度だったまや型護衛艦がベースになっても2500億円以上になるというのは、何が影響しているのかはよく分からないけれども。

佐藤正久氏は、SPY6・BL10搭載案を推しているようだけれども。

さておき、今回のイージス・アショアの断念を契機に、日本の防衛の在り方をもう一度考え直して欲しいと思う。色んな考え方があると思うからね。

ただ、お値段だけで語るのはダメかな。

コメント

  1. 国際条約その他もろもろをガン無視して、「少子高齢化で人手足らないから核武装して防衛手抜きしします」が最適解だと思うのですが、それはできませんからね。

    やや拙速に走って地上イージスがとん挫した印象を受けなくもないですが、既存のレーダーサイトを更新するなりして近い状況は作ってほしいな、とは思います。
    人手不足は海だけの問題ではないわけですし、新規レーダーサイトにどこまで人が避けるか。と思えば見直しも悪くないと思ってます。
    個人的には護衛艦より対馬あたりにテコ入れしてほしい。
    もちろん、周辺がうるさいでしょうけど、それだけ有効な手でしょう。観光が減ってピンチな地元経済にも貢献しますし。

    それと現状、不景気というか停滞感が漂う世の中ですから公務員、自衛隊は募集のチャンスなんですけどねぇ
    これもまた不謹慎と言われそうではありますが、人手が必要なのは事実として如何にか募集も頑張ってほしいところ。

    • 核武装はなかなかハードルが高いのですが、核シェアリングか、或いは非核三原則を放棄して、アメリカ軍が日本に核兵器を持ち込むことをOKすれば、ある程度は抑止力になる可能性はありますね。

      そして、ご指摘の様な離島にイージス・アショアを作る案はアリだと思います。
      自衛隊のお手当も、もっと上げて良いような気がするんですけどねぇ。お金目的に入隊するような人間が使えるか?という問題はありますが、それにしたって現状はかなり酷い状況なんですよね……。

  2. 木霊さん、おはようございます。

    代替案の価格が理不尽過ぎるくらい高い...、極左マスメディアはこう攻めてくると思ってましたが、いつもながら国防の重要性は脳ミソから完全に流れ落ちてますねェ~。
    支那の傍若無人な脅威がドンドン高まっているのに、いったい国民の生命・財産そして国土の安全を平気で売るつもりなんでしょうか。

    さて、実績がありアメリカイージス艦に量産化決定のSPY-6ではなく、未完成のSPY-7をわざわざ選ぶ理由は索敵距離が段違いだからじゃないかと想像してます。
    先日成功が伝えられたSM-3ブロックⅡAでICBM迎撃がありますが、ブロックⅡAの射程は2000km以上だと噂されています。

    アメリカ軍が車力と丹後士に配備しているXバンドAN/SPY-2の索敵距離は1000km以上ですから、SM-3ブロックⅡAの射程を考えるとSPY-7で3000km(北京はもちろん支那中部まで)から発射される弾道ミサイルを探知を密かに狙っているんじゃないかな。
    もちろん、地球は丸いので索敵距離が長いとはいえ、SPY-7レーダーが探知できるのは発射から数十秒後でしょうけど、逆に言えば発射から数十秒後には追尾可能って事です。

    日本のイージスシステムの運用はBMD専用が前提なんですが、これに敵地攻撃能力(首都を含む軍事司令部)を付加すれば、支那にとっては厄介なシステムとなるでしょうからね。

    >ミサイル防衛というだけではなくって、敵基地攻撃能力の獲得まで考えるべきであろうと思うし、新たなイージス艦を建造するのであれば、その機能を盛り込むべきなのだ。

    ご指摘通り、これがミソだと思いますね。
    欧州に配備されたイージスアショアはAN/TPY-2レーダーで、敵地攻撃能力は持っていませんがソフト変更でトマホーク等運用可能とか。
    SPY-7採用を推す目的が索敵距離3000km以上&敵地攻撃能力付加と考えれば、日本のBMD&敵地(敵基地限定の縛りはなくすべき)攻撃能力確保という意味で間違ってはいないと思います。

    それでも、地上配備を諦めて欲しくないですけどね。
    せっかくBMD専用イージス艦×2隻増艦計画は維持して、予算をさらに追加し最新イージス艦を2隻プラスして12隻体制でもいい。
    イージス艦は使い方次第で攻守の射手とできますし、BMDを総合運用する時貴重なセンサーモードとして機能しますから。

    現在、議論中のBMD専用イージス艦は東西の沿岸接続海域に配備し(佐世保・新潟あたり)、クルーはローテンション制で365日24時間警戒態勢を確立、その護衛は近海警備用のFFMをローテで廻し、計画中の1500t級哨戒艦そして無人潜水艦新規開発で警護すればいいんじゃないかな。
    接続海域としたのはそういう沿岸まで支那の潜水艦・戦闘艦が迫る時は、国の存亡に関わる危機ですから全面防衛戦争事態ですもん。

    今は議論している場合じゃなく国家としての覚悟を持った結論こそが急がれます。

    • SPY-7を選んだ理由は2つあって、1つは記事に言及しましたが、SPY-6が順番待ちで発注しても搭載できるのが随分後のことになる可能性が高いこと、SPY-7の探知範囲が広く、艦艇に搭載可能であるのか?という質問に対して、相手側ができると応えたこと、ということのようです。
      そういう意味では、新型イージス艦の建造がアリだと思います。
      が、記事でも書いたようにそもそも、ミサイル防衛の限界があっての話なんですよね。そこはご指摘通り、覚悟を持って結論を出して欲しいと思います。