巡航ミサイル対処のために多機能イージス艦新造へ?

防衛政策

産経新聞のトバシの可能性はあるけれども、どうやらこの方向に固まりそうな流れになっているようだ。

巡航ミサイル対処 防衛力底上げ 多機能イージス艦新造

2020.10.28 23:00

政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア(地上イージス)」の代替策としてイージス艦を新造する方針を固めたのは、当初想定した弾道ミサイル防衛(BMD)能力にとどまらず、巡航ミサイルをはじめ多様な脅威に対応できる能力を保有すれば防衛力の底上げにつながると判断したためだ。今年6月に地上イージスの配備断念が発表されて以降、さまざまな案が浮かんでは消えたが、イージス艦新造を求める自民党の声も代替策の絞り込みに影響した。

「産経新聞」より

何というか、最初の言い訳は一体何だったんだ……。

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巡航ミサイルや超音速ミサイルにどう対応するのか?

消えたイージス・アショア案

以前、このブログでも言及させて頂いたのは、地上配備型のイージスの話。

元防衛大臣の河野太郎氏の決定をもって、イージス・アショアの設置案は断念され、再検討という話になった。

Aegis01

この案は、そもそもイージス艦が足りないから、乗組員が足りないから、地上でミサイルの監視をやったらどうだ?というのがスタートだったはずである。

つまり、イージス・アショアの設置は陸上自衛隊にミサイル監視の一部を任せましょうという話なのだけれど、それが中断してしまった状況となった。

イージス・アショアは必要無かったのか?

じゃあ、止めてしまって大丈夫なの?という点には別の記事に起こしている。

簡単に言えば、イージス・アショアは不要とまではいえないが、無いと困るのでは?という結論になった。

迎撃イメージ

しかし、これだけでOKと言う訳ではないのである。

何故か?それは、迎撃だけでは限界があるからである。最近の弾道ミサイルや巡航ミサイルは速度が速く変則的な軌道をとることができるようになって、迎撃が難しくなっているそうな。いや、そもそも量的飽和攻撃を受けると、迎撃できるミサイルの数に限りがあるため、撃ち漏らしが多くなってしまうといった問題が指摘されている。

日本政府は3案を提示

で、陸上配備を断念したので、次に決めたのが海上案だ。

政府は9月24日に自民党の関係部会で地上イージスの代替策として、(1)商船型(2)護衛艦型(3)移動式の海洋掘削装置(リグ)型-の「洋上案」を示した。このうち商船型や護衛艦型ではBMDに特化した「専用艦」の構想も浮上。地上イージスがBMD向けの装備だったことを受けたものだ。

「産経新聞”巡航ミサイル対処 防衛力底上げ 多機能イージス艦新造”」より

これがまた割とふざけた話ではあるのだが、どうして陸上配備案はここから消えてしまったのか。海辺に作れば良いじゃないの?ともあれ、この3案は何れも海上案であって、陸上配備の話は消えてしまっている。

流石に自民党議員もこの案にはご立腹だったらしいのだが、この政府案に猛反発する事態に。

国防議連は23日、巡航ミサイルや敵航空機などにも対応できるイージス艦の増隻を求める提言をまとめ、政府も追認する形となった。

「産経新聞”巡航ミサイル対処 防衛力底上げ 多機能イージス艦新造”」より

しかし、新型艦を作ったからと言って、迎撃力があがるわけでもない。……あがるのかな?読み方によってはイージス艦の機能向上によって対処するという風にも読めるのだが、でも、巡航ミサイル迎撃もできるイージス艦って、研究にはそれなりに時間がかかるんじゃないのかね。

もちろん満点の解決策があるわけじゃ無いんだろうけれど、結局、イージス艦を増やしましたじゃ、イージス・アショア案は一体何だったのかという事になるよね。

そもそも迎撃だけでは片手落ち

安倍氏は総理辞任前に敵基地攻撃能力が必要だとの認識を示した

さて、今年の9月に安倍氏はこんな事を言った。

敵基地攻撃能力は「必要」 安倍首相が談話「安保政策、年内結論を」

2020年9月12日 05時50分

安倍晋三首相は11日、ミサイル防衛に関する新たな安全保障政策の談話を発表した。敵国のミサイル攻撃を防ぐため「迎撃能力」を上回る対策を検討し、与党と協議して年内に結論をまとめると明記した。専守防衛の安保政策を転換し、ミサイルが発射される前に相手国の基地をたたく「敵基地攻撃能力」の保有検討を、事実上促す内容だ。首相は既に米国にもこうした考えを伝えている。退陣する首相が次期政権の安保政策を縛りかねない懸念がある。

「東京新聞」より

年内に「迎撃能力」を上回る対策を検討せよと。

それが進んでいるのかどうなのか?を含めて殆ど話を聞いていない。報道は何をやっているのか、という疑問もあるが、何より政治家が声を上げていない現実が嘆かわしい。

岸防衛相、敵基地攻撃「年末までに一定の考え」

2020/9/20 13:01

岸信夫防衛相は20日のNHK番組で、他国から攻撃を受ける前に攻撃拠点をたたく敵基地攻撃能力の考え方を年内に示すと述べた。「年末までに一定の考えを示す」との見解を示した。「政府で問題意識と検討状況を整理し、与党としっかり協議したい」と話した。

「日本経済新聞」より

防衛相となった岸氏はやる気はあるみたいだけどね。

中日新聞(東京新聞)は、ねちっこく批判を繰り返しているようだけれど、アホみたいな記事だな。

敵基地攻撃能力は「緊張高める」 保有考える集会で識者が批判

2020年9月29日 20時22分 (9月29日 20時43分更新)

北朝鮮や中国のミサイル技術向上を念頭に、政府、与党で浮上する「敵基地攻撃能力」の保有論について考える集会が29日、衆院議員会館で開かれた。参加した識者からは「東アジアの緊張を高め、軍拡につながる」「自衛権の要件を満たさない恐れがある」と批判が相次いだ。

「中日新聞」より

引用していてなんだが、読む価値は全く無い。大丈夫なのか?この人達は。だって、東アジアの緊張を高めているのは日本じゃなくて支那なんだぜ?

海上自衛艦の空母化の懸念?

さらにまあ、何というか。つちのこ新聞もこんな記事を書いていた。

菅政権下で本格化する海自艦の「空母化」 「敵基地攻撃の一翼」と懸念の声

2020年10月19日 14時00分(最終更新 10月19日 14時00分)

海上自衛隊の「いずも型」護衛艦で、飛行機も発着できる「空母化」に向けて改修が進んでいる。政府は「攻撃型空母には当たらない」としているが、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を受け、安倍晋三前首相は「敵基地攻撃能力」の保有を検討する考えを示した。こうした動きに対し、「専守防衛の変更と受け止められる」と改修中止を求める声が上がっている。

「毎日新聞」より

空母や敵基地攻撃能力の何が悪いというのか。

多分、彼らは言うだろう、伝家の宝刀「憲法違反」を抜いて「キュウジョウガー!」と。トリガーハッピーな彼らは銃を持たせれば直ぐに引き金を引きたがるが、口から出る言葉は「ジンケンガー」とか「ケンポウガー」とか、そんな台詞ばかりだ。

人権や憲法が国民の安全を守ってはくれないことは既に明らかになっていると言うのに、いつまで言い続ける気なんだろうか。

ただ、メディアはこの路線で反論を繰り広げていく気らしい。

対費用効果は検証が必要

尤も、日本の防衛費は限られているので、GDP比2%程度に防衛費を増額したとしても、アメリカと同じ事ができるわけでは無い。支那に一人で対抗できる戦力が得られる訳でも無い。

軍事研究の禁止!と声高に叫ぶ日本学術会議は、自滅の道を辿っているので、今後もうちょっとマシな研究ができるかも知れないが、学問の自由がある以上は、軍事研究にばかり助成するワケにもいかない。

できる事は限られているのだ。

では何が有効なのか?といわれると、これまたなかなか難しい。個人的には単機能艦を作ってみては?と思っていたのだが、これも「単なる的になる」という批判が強い様だ。それでも港に係留した単機能艦に陸上自衛隊員が乗船して仕事をするというのは、アリだと思うのだが……。或いは、離島に配備する案とかでもいい気はするんだけどね。

考え方によっては、更に能力を高めたイージス艦の追加というのはアリだと思う。でも、そもそも海上自衛官を増やすのが難しいことや、イージス艦数隻の体制では広い日本の領海をカバー出来ないから、固定した基地をという発想だったと思うんだが、そこのところはどうなの?

なかなかベストな案というところまでは行かないと思うのだが、年内にベターな案が出てくることを期待したい。

追記

さて、「敵基地攻撃能力」について本文中に言及しているが、これが手に入ったらOKか?というとそうでもない。

詳しくはコチラの方の記事に譲りたいと思うが、基本的には「敵基地攻撃能力」はどちらかというと、政治的意味合いの強い能力である。

「敵基地攻撃能力」では弾道ミサイルを阻止できない根拠と実戦例(JSF) - Yahoo!ニュース
イージスアショアは北朝鮮の弾道ミサイルを防ぐ目的で計画されていた以上、代替計画はこの目的に貢献するものでなくてはなりません。それでは北朝鮮の弾道ミサイルを敵基地攻撃能力で防ぐことは可能なのでしょうか?

この方、軍事的知識はかなり詳しいようで、ちょくちょく意見を参考にさせて頂く事はあるが、全てに同意出来るか?というと、そういう事ではない。紹介した記事の内容についても異論はあるのだ。

しかし、大前提として、迎撃にしろ、敵基地攻撃能力にしろ、能力獲得は困難である上に、確実性に乏しいということは理解しておく必要があるし、政府もその事を説明する必要がある。移動式車両でミサイルを移動されている状況では、これを迎撃することも、発射前に破壊することも困難なのだ。

そして、敵は北朝鮮だけではなく支那も韓国もロシアも、或いはアメリカだって敵対する相手となる可能性を否定できない。その時日本はどうやって対処すべきか?という点はそれぞれシミュレーションする必要があるし、少なくとも支那と北朝鮮は明確に敵になり得るので、敵として想定しないのはオカシイのだ。

だからといって、そのシミュレーションの結果を明かすことは、日本の手の内を曝すことにもなりかねないので、情報の扱いは難しいのだろうけれど。

追記2

どうやら政府方針としてはSPY7 ベースライン9をセンサーにして新造のイージス艦を作るとことを目指しているらしいという。

<独自>多機能イージス艦新造へ 代替案 地上用レーダー搭載 防衛大綱小幅改定

2020.10.28 23:00

政府が配備を断念した地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア(地上イージス)」の代替策について、新たにイージス艦を建造する方針を固めたことが28日、分かった。防衛省は地上イージスのレーダー「SPY7」を搭載する方向で調整を進めている。政府はこれまで弾道ミサイル防衛(BMD)に特化した専用艦も選択肢としていたが、複雑化した脅威に対処するため、多機能のイージス艦が必要と判断した。

「産経新聞」より

ただ、これにはかなり異論もあるようで。

佐藤正久『【国防議連、「新たなミサイル防衛に関する提言」を岸防衛大臣に申し入れ】』
国防議連で8月末から、8回に渡る勉強会を重ねて策定した「新たなミサイル防衛に関する提言」を本日、岸防衛大臣に提出した。 陸上イージスの代替案については、導入を…

これは議員の佐藤正久氏が国防議連として、防衛大臣に対して行った提言のことを、自身のブログで紹介されている。提言文書の中身も読めるね。

サックリ言うと、新造のイージス艦が軸でSPY6・ベースライン10を採用して、イージス艦10隻体制にしようよ、ということを言っているようだ。

しかしこの提言を読むと、敵基地攻撃能力を含めた拡張性を備えた半固定のBMD専用艦を用意するのはアリなんじゃないか?という気がするんだが……。そして加えて、SPY6、SPY7の納期を含めた話について検討していないところが、ちょっと片手落ちかなぁ、この提言も。

とまあ、多少の疑念もあるが、こうした提言が議連レベルでやれることが、自民党が未だマシという事に繋がるのだろう。

コメント

  1. 安易に陸自基地を前提に進めた結果の大失敗じゃないかなァ~。
    陸自が運用するのは反対じゃないのですが、それなら海岸線にある海自・空自基地を共用するなんてできなかったのかな。
    結果的にそういう慎重な精査不足が断念に追い込まれた原因と思っています。

    とはいえ、海自・空自基地共用案ならまだイージス・アショアの可能性は残っているのに、後戻りのイージス艦代替え案は残念ですね。(とはいえイージス艦×2隻増艦は何とかしてでも実現して欲しい)

    >これがまた割とふざけた話ではあるのだが、どうして陸上配備案はここから消えてしまったのか。海辺に作れば良いじゃないの?

    ブースター落下制御問題は最新鋭のSPY7の技術が問題となっていますが、本末転倒の話であり何らかの妨害工作があったんじゃないかとすら疑ってます。

    >弾道ミサイルを探知する高性能レーダーとして米ロッキード・マーチン社の「SPY7」を導入する方針を固めた。配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として艦船に搭載することを検討する。

    引用したのは岸防衛相の談話ですが、実績のあるSPY6ではなく頑なにSPY7を選ぶ理由はただ一つ、公称索敵距離1000km以上でその実力は2000kmとも言われ、北京はもちろん支那内部・ロシア東部軍管区まで標的にできる能力があるからでしょう。
    これを実戦配備できれば完璧じゃないにしろBMD強化はもちろん、システムに高速巡航ミサイルを組み込めば、「敵首都を含む敵地攻撃」を得る事が可能となり、大きな抑止力となるでしょう。(僕が一番期待しているところです)

    • 個人的に陸自にミサイル防衛のお手伝いをして貰うという発想そのものは悪く無いと思います。
      ただ、根回しが殆どされておらず、色々失敗しちゃいましたねぇ。

      ブースター落下の裏話的なものは青山繁晴氏のサイトで解説していて、その解説はそれなりに筋は通っていました。それが本当かどうかは不明ですが、何れにしても随分とお粗末な話なのでしょうね。

      なお、艦載用のSPY6でもSPY7でも完成までにはちょっと時間がかかるようで、SPY6は外国に輸出できるバージョンが出てくのが2030年頃、SPY7は影もカタチも無いという。
      先の長い話ですねぇ。

      • どうやら新型イージス艦新造に傾きつつあるようで、乗員の負担軽減で居住空間を広げて「まや型」より大型化する具体案まで出てきましたね。

        乗組員不足は陸自隊員の応援でもいいという木霊さんの案には僕も賛成です。(苦肉の策ですけどね)
        それを前提にポイントになるのは配備地であり、イージスアショア的な運用をするなら沿岸にある海自基地近辺、陸自隊員が2~3週間のローテーションで交代できる環境整備が必要になるんじゃないかな。
        つまり、基地への帰還と乗員交代を考えると展開するのは領海or接続水域を限界とし遠洋には出ない、となればその近辺に配備する必要がありますから、母港候補地は東は大湊か新潟(港湾拡張が必要かな)・西は佐世保あたり? 

        SPY7の開発が問題ですが日本版イージスアショアが目指した、索敵距離1000km以上(ポテンシャル2000km)なら早期迎撃態勢に入れますし、検討中の「敵地反撃能力」を有した時に攻撃ミサイルにも貢献するでしょう。
        監視衛星&NIFCA構築と連携させるかも必須条件。

        また単独で敵ミサイル迎撃&漁船などによるテロ攻撃を防御するミサイル&火器は必須となり、本来のBMD用SM3・SM6の数は制限されるでしょう。
        となると現在建造中の装備がフレキシブルなFFMを最低でも各1隻増で、対空戦&対潜戦に備えて護衛配備する可能性も出てくるのかな。
        さすがに潜水艦までは護衛任務オンリーで付けさせれないから、陸上基地から遠隔操作可能な無人潜水艦の開発も急がれますね。

        いずれにせよ課題山積み...、深く考えると頭がクラクラしちゃいますね。(苦笑)

  2. 木霊さん、おはようございます。

    追記です。

    専用イージス艦増設(陸自隊員を有効利用する前提で賛成です)SPY6orSPY7であろうと時間がかかりそうですね。
    僕は北京を破壊する射程距離優先なんでSPY7押しなんですが、それも「敵地攻撃力→敵基地限定ではない」が付加されないと絵に描いた餅です。

    >自民党の国防議員連盟は、SPY6と7の各長所と短所を挙げ、「(アショアの)教訓を踏まえ拙速を排し、幅広く客観的かつ正確な情報を得て、評価・決定すること」などとする提言を策定。10月30日に岸信夫防衛相に申し入れた。

    そんな事言ってる場合じゃないと思う、マジで!!
    亡霊の様なセクショナリズム&ヒエラルキーを一切排除して、国民の命・財産と国土の安全保障を根本から議論すべきです。