何が起こっているのやら。
アゼルバイジャンとアルメニア 戦闘で90人以上が死亡
2020年9月29日 7時04分
旧ソビエトのアゼルバイジャンとアルメニアの係争地をめぐる大規模な戦闘は、28日の夜も続き、これまでに民間人を含む90人以上が死亡しました。戦闘のさらなる拡大が懸念される中、アルメニアの同盟国・ロシアと、アゼルバイジャンの友好国・トルコの動向が今後の焦点となっています。
「NHKニュース」より
アゼルバイジャンとアルメニアの位置関係がまず分からないと言うレベルなのだけれど、どうやら歴史的に仲が悪いらしいということのようだね。
歴史的背景の根深い両国間の争い
アルメニアとアゼルバイジャンは旧ソビエト連邦領
地図を見て頂くと分かるのだが、アゼルバイジャンの中央辺りに赤い色の土地があるのが分かると思う。ついでにアゼルバイジャンはアルメニアに分断されているような形になっていることも分かると思う。

赤く色が変えられているのが、ナゴルノ・カラバフという地域で、アゼルバイジャンの中にあってアルメニアの領地と言う事になっている。一方、アゼルバイジャンの飛び地はナヒチェヴァン自治共和国と呼ばれる地域で、アゼルバイジャンに属するという扱いになっている。
今回騒ぎになっているナゴルノ・カラバフは、近年、ナゴルノ・カラバフ戦争(1988年2月20日~1994年5月12日)という争いが起こり多数の死者を出したが、古くからちょうど争いがあったようで。
現在は多数のアルメニア人がこの地に移住して実質的に支配していて、アゼルバイジャン側も「古来から自身の土地なのだ」と主張しているだけに、話はそう簡単ではない。
ロシア帝国崩壊後にもアルメニア・アゼルバイジャン戦争(1918年~1920年)が勃発していて、ソ連が仲裁することで一時的に沈静化していたものの、ソ連崩壊(1991年12月)によって扮装が再燃する。それがナゴルノ・カラバフ戦争で、1992年にホジャリ大虐殺(1992年2月25日~26日)が発生してアゼルバイジャン人住民が600名以上一方的に殺されてしまう。このために収集が付かない事態となって、ロシアが調停を画策した結果、取り敢えず停戦が成立する。
和平交渉が開始されたのは1997年で欧州安全保障協力機構(OSCE)が動き出してからのことで、その仕事は全欧安全保障協力会議(CSCE)に引き継がれるも未だに実を結んではいない。
領土問題以外の様々な問題
この両国間の軋轢は、領土問題だけではなく、文化や宗教に根差すものである。例えば、アゼルバイジャンでは、イスラム教シーア派が信仰されているが、アルメニアでは基本的にキリスト教が信仰されているようだ。
この二つの宗教は教義的に相容れないので歩み寄れない理由の1つとなっているのだが、紛争中にお互いに宗教施設を破壊するなどの行為をしていることもあって、恨みは深い。
更に、アゼルバイジャンに油田が見つかったことも事態に拍車をかけているようだ。アルメニアには油田が見つかっていないからね。で、アゼルバイジャンは石油パイプを作って石油を輸出するようなことをしているのだけれど、そのパイプラインはアルメニアを通過しない。この辺りも妬み嫉みを産んでいるのだろう。
扮装勃発
一触即発の雰囲気は、この両国に常にあって、今回その引き金を誰かが引いてしまったという事になる。
アゼルバイジャンとアルメニアが戦闘 死傷者も 再び緊張高まる
2020年9月28日 5時42分
領土問題をめぐってこれまでも紛争が続いてきた旧ソビエトのアゼルバイジャンとアルメニアの間で27日、戦闘が起きて死傷者が出るなど緊張が再び高まっています。ロシアとEU=ヨーロッパ連合が双方に自制を求めるなど、懸念が広がっています。
~~略~~
アゼルバイジャンのアリエフ大統領は「アルメニア側がわれわれの軍事施設などに砲撃を始めた」と述べたのに対して、アルメニアのパシニャン首相は「アゼルバイジャン側が大がかりな挑発を行ってきた。
これはわれわれに対する宣戦布告だ」と非難し、戒厳令を出すとともに国民総動員でこの事態にあたるよう求めました。
双方は、戦車や地対空ミサイルを攻撃したなどと発表しています。
「NHKニュース」より
ただ、この前段階として、アゼルバイジャンとトルコとの間で会談が行われている。
エルドアン大統領が、アゼルバイジャン議会議長と会談
13.09.2020 ~ 29.09.2020
アゼルバイジャン国民議会のサヒバ・カラフォヴァ議長は、9月12日、エルドアン大統領を表敬訪問した。
「TRT」より
そして、今回の紛争でトルコが関わっている節があるようなのだ。
Turkey-backed Syrian mercenaries arrive in Azerbaijan – SOHR
Sep 27 2020 07:26 Gmt+3 Last Updated On: Sep 27 2020 07:28 Gmt+3
A group of Syrian fighters from Turkey-backed factions have arrived in Azerbaijan on Sunday evening, London-based Syrian Observatory for Human Rights reported based on “very reliable sources.”
The current group had arrived in Turkey from Syria’s Turkish-controlled Afrin earlier in the week.
「Ahval」より
トルコ政府は軍事衝突発生直後に、「アゼルバイジャンに手を貸す」という様な声明を発表していて、実際に自由シリア軍(FSA)の兵士約1000人がアゼルバイジャン入りしているようだ。
そして、トルコ大統領のエルドアン氏はこんな発言もしている。
一方アゼルバイジャンの友好国、トルコのエルドアン大統領は、「アルメニアがアゼルバイジャン人の土地から直ちに撤退することで平和が訪れる」と演説して、アゼルバイジャンを支持する姿勢を示し、アルメニア側が反発しています。
「NHKニュース”アゼルバイジャンとアルメニア 戦闘で90人以上が死亡”」より
一方のアルメニア側にはロシアが荷担しており、ロシアとトルコの代理戦争というような様相も呈しているだけに、なかなか収まりそうにない。
追記
泥沼になりつつあるけれども、さてはて。
アルメニア、「トルコ軍が戦闘機を撃墜」 アゼルバイジャンとの戦闘続く
2020年9月30日
旧ソビエト連邦のアルメニアとアゼルバイジャンの間で、係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって起きている戦闘で、29日までに100人近くが死亡したとみられる。アルメニアは同日、同国軍の戦闘機1機がトルコ軍の戦闘機に撃墜されたと述べた。
「BBC」より
トルコが使っている戦闘機といえば、F-16であったはずだ。

アルメニア当局によると、旧ソ連製のアルメニア軍のSU-25戦闘機が29日朝、同国領空でトルコ軍のF-16戦闘機の攻撃を受け、パイロットが死亡した。
トルコ軍のF-16戦闘機は、アルメニアの領空内60キロメートルまで侵入していたという。
「BBC”アルメニア、「トルコ軍が戦闘機を撃墜」 アゼルバイジャンとの戦闘続く”」より
アルメニアのSu-25を撃墜しちゃったらしいのだが、アルメニア側の主張によるとアルメニアの領空内60kmまで侵入していたというから、この話はかなりややこしいことになりそうだ。
戦闘機で60kmというと1分とかからない距離である。これを立証することは難しいと思うよ。一部始終が映像で残っていたにせよ、それでも空域毎に色分けされているわけでは無いので、証拠になるかどうか。
ともあれ、話は拗れそうだね。
追記2
経緯について突っ込んだ記事があったので、コレも少し追記しておきたい。
緊張は夏から徐々に高まっており、9月27日に直接衝突へと発展した。衝突のタイミングは重要だ。過去に仲裁に当たったロシア、フランス、米国などの大国が現在、新型コロナウイルス感染症、米大統領選、レバノンからベラルーシに至る数々の世界危機への対応に忙殺されているからだ。
7月に低いレベルで衝突が起こった際、国際社会の反応は薄かった。7、8月にアゼルバイジャンと大規模な軍事演習を実施したトルコは、過去の危機に比べても目立った支援を打ち出している。トルコのエルドアン大統領は28日、「資源と心のすべてで」アゼルバイジャンを支持すると表明した。
トルコがアゼルバイジャンに対し、軍事専門家やドローン、戦闘機などを提供しているかどうかには直接言及しなかった。アルメニアはトルコがこれらを提供していると主張し、アゼルバイジャンは否定している。
「Newsweek”アゼルバイジャンとアルメニア、軍事衝突の背景とは”」
やっぱりトルコが関わっていたことは疑い様が無いのだけれど、ちょっと気になる書き方がなされていたので、そこも引用しておきたい。
ロシアはアルメニアと相互防衛協定を結び、同国内に軍事基地を持つ一方で、アゼルバイジャンとも良好な関係にあり、紛争拡大は利益にならない。外交が成功すれば、ロシアは戦闘停止の功績で賞賛を浴びることができるかもしれない。
ロシアは折しも、不正選挙問題で揺れるベラルーシのルカシェンコ大統領支持や、ロシアの反体制派ナワリヌイ氏の毒殺未遂疑惑などで厳しい批判を浴びているところだ。ロシアのプーチン大統領は27日、アルメニアのパシニャン首相と電話で会談したが、アゼルバイジャンのアリエフ大統領との対話を試みたかどうかは今のところ不明。
「Newsweek”アゼルバイジャンとアルメニア、軍事衝突の背景とは”」
ロシアの暗躍が指摘されている。
当然、トルコもエルドアン氏の求心力低下が指摘されているため、強権的な政策を進める、外国の抗争に首を突っ込むなどということは意味がありそうだが、ロシアとしても外交的手腕を発揮する格好の事態になっている。
簡単に騒動は収まりそうにないが、収まった場合にも色々な方面に波及しそうだね。
コメント
木霊さま、みなさま、こんにちは。
トルコはリビアへの武器輸出禁止処置違反で、EUからトルコ
企業への制裁を科している。また、東地中海問題でキプロスや
フランスがトルコへの経済制裁を主張しています。
原油天然ガスパイプラインは、カザフスタンー>カスピ海ー>
アゼルバイジャンー>ジョージアー>トルコー>欧州 と、
流れているので、紛争が長引けば、欧州でのエネルギー支障が
発生する可能性もあります。(恫喝材料にピッタリ)
ロシアのS-300ps/vが自爆型ドローンで破壊されたと
言った話もあり、無人航空機の質と量が戦況に反映されている
のでしょうか? 事実なら、安値で敵の防空網を破壊制圧可能
な手段を多くの国が手に届くようになり、専守防衛などという
言葉は、ますますもって、無価値で無意味な物になりそうです。
ヨーロッパはかなり混沌としていますね。
やはりトルコが今回の騒ぎでもキーになってきそうです。シリア問題にしてもアルメニアとアゼルバイジャンの話しても、或いは中東問題においてもトルコは複雑に問題に絡んでいるようで。
エルドアン氏はやり手ですから生き残ってはいますが、なかなか……。
ロシアも暗躍しているだけに、ややこしいですよね。一時期はロシアとトルコで手を結ぶなんてあったんですが。
木霊さん、おはようございます。
この二つの国は名前くらい知ってる程度で、歴史背景・地理的条件・ロシアとトルコとの関係などについてはあやふやというかほとんど無知でした。
ご紹介頂いたナゴルノ・カラバフ戦争も30年近く前の事件なので、まだネット情報も少なかったと思いますし、新聞等のマスメディア発信をよほど細かくチェックしていなければ素人には難しかったと思います。
>そして、今回の紛争でトルコが関わっている節があるようなのだ。
>一方のアルメニア側にはロシアが荷担しており、ロシアとトルコの代理戦争というような様相も呈しているだけに、なかなか収まりそうにない。
エルドアン大統領はアメリカ・NATOとは微妙な反目の姿勢を見せ牽制してるのに、一方シリアではロシアと真っ向から敵対ながらこれ見よがしに徹国ロシアの武器を買ったり、その立ち位置戦略の判断が難しいご仁の様に思います。
大国間の一方に加担するのではなく中東&最東ヨーロッパで独自の地位を築き、国際的立場を強化する意志とするならば国策の一環として、今回も後ろから介入するのでしょうかね。
世界中に戦争に繋がる紛争の火種は尽きないって現実を改めて見せつけられた事件ですが、最短で和平が終結するよう祈るばかりです。
僕自身も「聞いたことある」程度だったので、何処にあるかはかなり怪しかったこともあって、その辺りから説明させて頂きました。
もうちょっと両国の根深い抗争について言及すべきか悩みましたが、今回はライトに。
結局、陸続きの隣国は、多かれ少なかれこの手の争いを抱えています。そう簡単には解決出来ない話でもありますね。
トルコも随分と難しい国ですから、この話とどう関わってくるのか。
迎撃ミサイルを配備する等という噂も聞きますよ。
木霊さん、おはようございます。
今のところ情報が錯綜・混乱していて「やった、やられた」の非難合戦の様相です。(戦闘は激化しているのが心配ですが)
政治的事情を共に抱えるトルコとロシアが裏で暗躍や支援するにしても、何もわざわざ火薬庫に火をつけて油を注ぐ必要はないのにと情けなくなりますね。
経済的安保が理由ならジョージア経由のパイプライン防御もありですが、アルバニアが何か攻撃でも目論んでいたのでしょうか。 どうにも解せません。
エルドアン大統領の「アルメニアがアゼルバイジャン人の土地から直ちに撤退することで平和が訪れる」、という理屈も歴史的&領土問題的にはそういう言い分なんでしょうけど、今回の行動はあまりにも唐突過ぎる気がします。
何しろロシアの介入を招くのは必至な訳で、対ロシア政策や国際社会との協調としてはいかがなものなのかと?
ところで、ロシアはアジェルバイジャンとの関係も良好なようで、どんな仲裁をするのかプーチン大統領の手腕に注目しています。
>トルコが使っている戦闘機といえば、F-16であったはずだ。
F-16C/D×約220機とF-4EファントムⅡ(近代改修型)×約170機を現役で使っている珍しい空軍です。
撃墜されたSU-25は戦闘機ではなく攻撃機ですから、F-16と対峙しては相手にならなかったでしょうね。
事実ならF-16のキル・レシオが+1となっただけ、こんな虚しく不毛な戦は早くやめて欲しいもんです。
些細なことですが
>赤く色が変えられているのが、ナゴルノ・カラバフという地域で、アゼルバイジャンの飛び地はナヒチェヴァン自治共和国と呼ばれる地域で、「「「アゼルバイジャン」」」に属するという扱いになっている。
最後はアルメニアでは?
ご指摘感謝。
一文、抜けていましたね。修正しました。