イランでの混乱激化

中東ニュース

事態は更に混乱してきたな。

イランの国力を考えても、アメリカの現状を考えても、第三次世界大戦勃発!などという事態にはならないと予想しているが、思いもよらない理由で大騒ぎに発展する事は珍しくは無い。

事実、第一次世界大戦の切っ掛け隣ったのはサラエボ事件(1914年6月28日に、サラエボでオーストリアの大公が暗殺されかけた事件)であった。

そんな事態にならないことを願ってはいるのだけれど、注視していかねばならない状態になってきている。

イラク駐留米軍に弾道ミサイル攻撃 イランが十数発 米国防総省

2020年1月8日 10時35分

アメリカ国防総省は声明を発表し、日本時間の8日午前7時半ごろ、イランが十数発の弾道ミサイルをイラクに駐留するアメリカ軍などに対して発射したと明らかにしました。イラン側は、アメリカ軍が精鋭部隊の司令官を殺害したことへの報復だとしています。

「NHKニュース」より

サラエボ事件どころの騒ぎでは無くなった今回のスレイマニ氏殺害事件(2020年1月3日)だが、イランは宣言通りにアメリカに対する報復を行った。

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人権が重視されないイラン

デモ部隊は実弾で弾圧される

このブログでは支那に対して人権弾圧国家であると批難してはいるが、イランはこの支那を上回るような酷さでデモ隊を弾圧している。

1500人が殺害された「安倍首相にはイランで起きている真実を知ってほしい」老ジャーナリストが訴え

2019/12/25(水) 12:00

ガソリンの値上げをきっかけに先月15日から抗議運動が全土に燃え広がっているイランで、最高指導者アリー・ハメネイ師の主導で弾圧が行われ、死者が1500人にのぼっているとロイター通信が報じました。17歳の未成年、女性400人も含まれているそうです。

「yahooニュース」より

このニュースに関連してこのブログでも記事を書いているが、「ガソリン値上げを切っ掛けに」というのは実態を示していないフレーズだ。事実ではあるかも知れないが。

この記事の時点では400人程度だとされていたが、去年の末には3倍以上に被害者が増えていて、それがイラン革命防衛隊による実弾制圧によるものだというから、恐ろしい。自国の国民のデモを鎮圧するのに実弾を使うというのは、イマドキは支那でもやれないのだが、イランはそれが可能な国家だということだ。

また、イラン革命防衛隊の下部組織コドス軍のトップであったスレイマニ氏はそうした組織に所属する司令官であったという事を考えると、決して人望の厚い英雄であったなどという事は無いのである。

むしろ、テロリストの親玉という風な理解が正しい。

しかしそうした人物を祭り上げないとならない様な事態になっているとすると、イラン国内はかなり大きな混乱を来していると言える。実際に、イランの実情を伝えようとした人々が弾圧されたという事が報じられている。

家族の多くは70~80歳代のお年寄りで「お前の息子や娘がイラン国際テレビチャンネルで働くのを24時間以内に辞めさせろ」と脅されました。

「もし辞めなかったらお前の息子や娘を力づくで捕まえて、イランに連れ戻す。彼らの住所は分かっている。彼らの子供が通っている学校もな」「もし息子や娘を説得できなかったら、イランにいるお前たちも、その結果を見ることになる」、と。

家族はイラン国外に脱出できないよう旅券を取り上げられました。そして仕事を失い、年金支給もカットされるかもしれないと通告されました。

「yahooニュース」より

イラン脱出ができない様に旅券まで取り上げられるというのは、ちょっと「人道国家」とは言えない状況だよね。家族が脅されるような状況というのは、余程都合が悪いのだろうね。

英雄に祭り上げられるスレイマニ氏

さて、イランではスレイマニ氏の国葬が行われることになったらしい。

司令官の遺体がイラン到着…路上で国葬、参列者100万人か

2020/01/05 21:32

米軍がイラクで殺害したイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官(62)の遺体が5日、イランに到着した。空路でイラン南西部アフワズに運ばれた。

アフワズ市内の路上で国葬が執り行われ、大通りは政府関係者や市民らで埋め尽くされた。イラン国営放送は、参列者の数を100万人規模と報じている。

「msnニュース」より

凄いな、イランの国営放送は「参加者100万人」と大々的にぶち上げている。

国葬

実際にこんな感じの騒ぎになり、死者まで出たと報じられている。

イラン司令官のひつぎに参列者殺到、50人以上が圧死…埋葬延期に

1/08 10:40

イラン南東部ケルマンで7日、米軍が殺害したイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官の国葬が行われていたところ、参列者が密集して身動きが取れなくなり、イラン学生通信によると、50人以上が圧死し、200人以上がけがをした。

「讀賣新聞」より

……人の葬式に出て、自分が死ぬ羽目になるとは思っていなかっただろうに。

体制指導部には、反米感情をあおり、「英雄の殉職」を国民の結束につなげる狙いもあるとみられる。

「msnニュース」より

ただ、この話はmsnニュースが指摘しているように「英雄の殉職」を演出したイラン政府側の狙いがあったからこそ、これだけの人を動員出来たのであり、ソレが裏目に出たという事なのだろう。

ケルマンはスレイマニ司令官の地元で、反米の機運の高まりを国民の結束につなげたいイランの指導部が参列を呼びかけていた。ロハニ大統領は7日、事故調査委員会を設置した。関係者を処分するとみられる。

「讀賣新聞」より

関係者は処分されるらしいよ。げに恐ろしきは宗教国家である。

反米体制を貫かねば、国民の支持が得られない

イラン経済は破綻

この様な事態を迎えてしまったトランプ氏だが、その言動について毎日新聞は批判的に報じている。

トランプ氏「何年も前に除去されるべきだった」 イラン司令官殺害作戦を正当化

2020年1月3日 23時39分(最終更新 1月3日 23時39分)

トランプ米大統領は3日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のスレイマニ司令官殺害について、ツイッターに「何年も前に除去されておくべきだった」と述べ、米軍による殺害作戦を正当化した。

「毎日新聞」より

トランプ氏のtwitterの内容は、毎日新聞は批判的に取り上げているものの、多くの事実を含んでいる。

事実、イラン国内でも反政府デモはかなり激化している模様。それを海外に伝えないようにイラン政府が弾圧を加えているらしいというのが上記の通りなのだが、この根底にあるのはイランの経済の疲弊っぷりにある。

イラン経済

これはイランのGDPの推移なのだが、ここの所の急落っぷりはかなりヤバイ状況にある。

もちろんこれが「アメリカの経済制裁の影響だよ」という事であれば、イラン政府の主張も解らなくはないのだが、そんな単純な話でもなさそうだ。

2018年度の失業率は12.0%

2019年04月25日

イラン統計センターは4月13日、2018年度(イラン暦1397年:2018年3月21日~2019年3月20日)の失業率を発表した(注)。同発表によると、2018年度の失業率は12.0%で、前年度の11.9%より、0.1ポイント悪化した(図参照)。

「JETRO」より

失業率12%という数字はなかなか衝撃的なのだが、若年失業率が3割弱となっているのがもっと恐るべき話。

失業率

イラン国内ではインフレが激しいらしく、財政赤字がイランの慢性的な問題となっている。イランは石油に依存する経済を続けていたことで、なかなか他分野への投資がうまく行かず、それ故の失業率で、ここ数年高止まりしている状況にある。

イランの反政府デモが激化し、イラン政府が宗教国家を標榜してイスラム色を強める理由は、こうした経済の低迷に原因がある。失業した若者中心でデモが主催されているのだ。

そして、イラン政府はその経済の不調の原因をアメリカの存在に求めているというのが実情なのである。

1970年代後半には世界第4位の原油産出国だったことを考えると、「石油さえあれば生きていける」という時代は終わり、多角経営によって経済再建待ったなしという状況となった。一方、アメリカがシェールガス、シェールオイルを採掘し始めたことで原油のマーケットは混乱状態になり、ここでも恨みを買うことになる。

アメリカの中東政策は失敗

アメリカの中東政策はイスラエル中心の世界観によって推し進められていたと言って良いだろう。

イスラエルの次に中東での関係の深いサウジアラビアとアメリカの関係は、割と疎遠になりつつある様だ。

サウジ石油施設攻撃はトランプがなめられたから起きた

2019年9月19日(木)17時20分

第2次大戦後、アメリカの中東政策は「3つの中核的利益」に基づいて動いてきた。第一が石油の自由な流通を守ること、第二がイスラエルの安全を守ること、第三は、これら2つの中核的利益を侵しアメリカに挑戦する国やグループが表れないようにすることだ。

つまり、イスラエルとの「特別な」関係を別にすれば、アメリカが中東に関わる理由は石油しかない。

だからこそ、サウジアラビアの重要な石油処理施設が攻撃を受けた今は、きわめて重要な時期だ。トランプ政権がどう対処するかによって、アメリカの権力層が今もエネルギー資源を中核的な国益と考えているのか、あるいは逆に中東を去ろうとしているのか、それがはっきりするだろう。

「Newsweek」より

結局、アメリカがどのような政策を採るにしろ、中東に対する過度の干渉は常に悪手である。そもそもが、第一次世界大戦以降、ヨーロッパを中心に中東の地図を勝手に書き換えた辺りに端を発して大きくなった中東の混乱だが、部族社会であった中東が今なお一族経営の国家を続けていることで欧米との齟齬が生じてしまう。

中東のことは中東の人々に任せるより他無いのだが。

アメリカは幾度となく中東の戦争に荷担しているのだが、その事もあまり良い結果を生まなかった。結局、アメリカは間違った政策を続けていたのである。トランプ氏は中東問題からは手を引きたいと考えているようで、そういう意味では判断は正しいのだと思う。

だとしたら、アメリカが発表したようにイラクから撤退し、手仕舞いをする方が利益が大きいのではないかと思う。

想定外のミサイル攻撃

ところで、イランの反撃だと言われているミサイル攻撃だが、どうやら弾道ミサイルだったのではないか?という分析が出ている。

米ABC「複数の施設に弾道ミサイル」

アメリカのABCテレビは、アメリカ政府当局者の話として「イラン国内からイラクにある複数の米軍関連施設に弾道ミサイルが発射された。これらの施設にはイラク北部のアルビルやイラク西部のアサド基地などが含まれる」と伝えています。

「NHKニュース」より

アメリカ軍としてもイランがまさか弾道ミサイルをぶっ放すとは考えていなかったようで、被害状況は伝えられていないものの、それなりの被害が予想される。被害者の話はでていないので、アメリカが直ちに報復を行うようなことは無いかも知れないが。

イランの攻撃として想定されていたのは巡航ミサイルやドローンの特攻攻撃のようなレベルであり、イラク駐在の米軍基地では弾道ミサイルに対する備えは疎かだったと思われる。

もちろん、イランが弾道ミサイルを保有していることは、既に知られていた話なので、完全に無防備であったと言う訳では無いのだろうが、それでも攻撃の精度を上げる為には未だ時間がかかるという観測はあった。

イランは、中東地域のアメリカ軍基地やイスラエルを射程圏内におさめる弾道ミサイルを保有しています。

精鋭部隊・革命防衛隊が開発や運用を担い、アメリカのメディアによりますと去年7月には、中距離弾道ミサイル「シャハブ3」1発の発射実験を行ったということです。

「シャハブ3」は、北朝鮮のミサイル「ノドン」の技術を応用して開発されたとされる比較的古いタイプで、アメリカのメディアは、「射程や精密さの改良が目的ではないか」と分析していました。

~~略~~

さらに去年7月以降はイランの脅威に対応するためとして、サウジアラビアに迎撃ミサイル「パトリオット」を運用する部隊を派遣し、10月には2つの戦闘機部隊と迎撃ミサイルシステム「THAAD」を運用する部隊などを追加で配置して、展開兵力を3000人規模に増強しています。

「NHKニュース」より

北朝鮮の軍事技術がイランに流れていると言う話は良く聞くが、中距離弾道ミサイルが北朝鮮由来の技術だったと実際に言われると、ああそうだったんだという印象が強いな。

今後、アメリカがどうするか?という点は注目すべきだろう。中東の混迷が世界に伝播しないことを望みたいところだが、経済状況はどこも芳しくないからねぇ。

事態に影響する2つの大統領選挙

さて、最後に時期的な話をしておきたい。

混迷の度深まる米大統領選-トランプ氏弾劾裁判にイラン司令官殺害

2020年1月7日 13:16 JST

2020年の米国の主要な政治カレンダーは、議会上院でのトランプ大統領の弾劾裁判に始まり、11月の大統領・議会選挙で幕を閉じる。

このうち与党共和党が多数派を占める上院の弾劾裁判で、トランプ大統領が無罪とされるのはほぼ確実。ただ、大統領選で再選を果たすことができるかどうかは見通せない。

「Bloomberg」より

先ずはアメリカの大統領選挙で、今年の年末にトランプ氏が再選できるかどうかが勝負と言う事になっている。

当然ながら情勢に大きく影響するだろう。

しかしもう一つ重要なのがイランの大統領選挙だ。イランは最高指導者がいてその下に大統領がいるという構図で、その任期は4年2期までとされている。現職のロンハニ氏は2013年当選なので、再選2期目で2021年にその任期が切れるとされている。

イランの選挙は民主的な選挙を演出しているが、その実、候補者が最高指導者の意向を汲んで評議会によって決定されるので、デキレースに近いものだ。

しかし、反政府勢力のが力を増してくるとこうした状況がかなり危うくなってしまう。最高指導者であるハメネイ氏の任期は不明だが、80歳と高齢である為にいつまでも続けると言うことは考えにくい。

イランの大統領選挙は上層部の権力争いに他ならないため、ここで国民の支持が得られない現体制が批判されれば、対抗派閥が勢力を増す可能性は高く、大きな政変が予想される。実際に、日本のタンカー攻撃の実行犯であるとされたイラン革命防衛隊は、ハメネイ氏の意思に反して実行してしまったという説もあり、一枚岩とは言い難い。

よって、下手な手を打てないというのが現状なのである。

その辺りの事も今後の動向に影響を与えてくるだろう。

コメント

  1. 両国ともかなり抑制した姿勢ですが緊張が解けるまで、引き続き注視していく重要な事案ですね。
    全面戦争回避を強く願います。

    >むしろ、テロリストの親玉という風な理解が正しい。
    >しかしそうした人物を祭り上げないとならない様な事態になっているとすると、イラン国内はかなり大きな混乱を来していると言える。実際に、イランの実情を伝えようとした人々が弾圧されたという事が報じられている。

    その時の情勢により国民さえ弾圧する独裁国家のやり口はどこも同じって事でしょうか、特に中東は宗教絡みだけでは説明できません。
    本質的に根にあるのは「誰が覇権を握り利益を独占するのか」という、中東権力争いが長く続き解決の糸口がつかめないのが悲しい。

    宗派を超越し過去の遺恨を水に流しイスラム教で大同団結し、オイルマネーの有効活用で経済力=国力を増進するって方向に向かわないもんですかね。(イスラエルが孤立しますけど)

    • イラン国内も、思っていた以上に混乱しているようですから、なかなかイラン政府も苦心しているみたいですね。
      イラン革命防衛隊も一枚岩ではないという話もチラホラ出ていますので、思いの外グリップが効いていない状況かも知れません。

      ウクライナの航空機を撃墜してしまった疑いが濃厚になり、さらにヤバそうな感じですが……。

  2. 今回のイラク米軍基地ミサイル攻撃の精密度と、ウクライナ航空機を誤射で撃墜のお粗末さのギャップに驚きです。

    米軍基地攻撃に使われたのは射程距離約700kmのQiam-1(北朝鮮のスカッドC-火星6号)又はシャハブ3(ノドン)との説もあるようですが、破壊された施設の画像では正確に狙った建物だったみたいですね。
    弾道ミサイルの弱点はCEPの幅が大きい事と認識していましたが、精密誘導技術は数10m単位と相当高くなってるのかなァ~。

    気の毒な犠牲者には哀悼するしか僕にはできないのですが、旅客機を巡航ミサイルと勘違いしたなんて言語道断でイラン革命防衛隊を許す事は絶対にできません。
    精密誘導攻撃はできても軍の統治・管理は杜撰であっては、危険な武器を所持する権利はないと思う。

    >実際に、日本のタンカー攻撃の実行犯であるとされたイラン革命防衛隊は、ハメネイ氏の意思に反して実行してしまったという説もあり、一枚岩とは言い難い。

    カリスマ最高指導者でさえコントロールできない軍って、本当にヤバいんじゃやないでしょうか。
    イラン革命防衛隊が好き勝手かつ無造作に武器使用するのを止めさせ、統治体制を大幅に刷新しないとイランは益々孤立していくだけと思いますね。

    15年戦争で数々の愚かな暴走を繰り返しそれに怯えた政府...、日本を滅亡寸前に追い込んだ軍部の狂気が蘇ります。

    • お粗末な話で、「それってどうなの?」という風に考えていましたが……。
      虎ノ門ニュースの青山氏の解説を聞いて、ああなるほど、という風に腑に落ちた話がありました。

      マレーシア航空17便撃墜事件(2014年7月17日)、シベリア航空機撃墜事件(2001年10月4日)と、航空機が撃墜される事件は希にあります。
      これ、何れもウクライナ絡みの事件でして、そして今回撃墜されたのがウクライナ航空の航空機であります。
      撃墜しているのは、何れもソ連の対空防衛システムです。
      本来であれば、民間機からは識別信号が出ている訳ですから、これを撃墜するなどと言う事は考えにくいわけで。
      にもかかわらず撃墜されてしまった理由は、多分、ロシアのシステムに何か深刻な欠陥があるのでは無いか?という疑いが出てきます。
      まだ、疑いがあるレベルの話ではありますが、怪しい感じです。

      そうだとすると、革命防衛軍の失態と言うよりはロシア製兵器の問題である気がしますよ。
      発表が遅れた理由もその辺り、圧力がかかったんじゃないかな?などと邪推していますけど、どうなんでしょうねぇ。