【歴史を振り返る】COCOM規制に見る、対支那政策

北米ニュース

学校では教えてくれない歴史、特に近代史は殆ど手を付けられてはいない。日本の戦後史を学んだ方は、案外少ないのでは無いだろうか?

そんな訳で、時々は近代史について触れる機会を設けたいなー、と、その様に考えている。今回はその第1弾かな。第2弾以降が作れるかどうか自身はないのだけれど。

さておき、本日はCOCOMの話から切り込んでいきたい。

【高論卓説】米規制で高まる中国リスク 対象広く、急がれる日本の対応

2019.5.4 12:00

まもなく、中国向け共産圏輸出規制(COCOM)ともいえる米国輸出管理改革法(ECRA)が発動する。これは国防権限法(NDAA)とともに作られた新法であり、米国が国防上危険と考える国などに対して、米国の兵器転用技術や先端技術を輸出できなくする法律である。

「産経新聞」より

産経新聞の5月の記事を引用してきたが、ここに登場するCOCOMとは一体何のことなのだろうか?

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多国間輸出統制調整委員会(COCOM)

共産主義国の軍事能力の強化を防げ!

戦後始まった冷戦当時は、西側諸国にとって、今では考えられないくらいソ連(現ロシア)を初めとする共産圏に対する警戒が強かった。

1950年1月に活動を開始したのがフランスのパリに本部を置くCOCOMと呼ばれる組織である。

対共産圏輸出統制委員会と日本語では訳されるのだが、Coordinating Committee for Multilateral Export Controlsの略称でCOCOMなので、直訳すると多国間輸出統制調整委員会、という事になる。

ただ、やっていた事は、共産圏に軍事技術や戦略物資が輸出されないように監視するという事で、西側諸国を中心に17カ国が加盟し、輸出統制をやっていた。組織としては1994年3月に解散している。

このCOCOMの後を引き継いだのが、ワッセナー・アレンジメントという協約だ。世界42カ国が参加して、紳士協定でものを売り買いするという構図になっている。ただ、「後を引き継いだ」というのはフレームを引き継いだだけで、罰則の無い単なる紳士協定である。

そして、ワッセナー・アレンジメントには、ロシアを初めとする共産圏の国々が参加しているので、COCOMとはそういった点でも異なる。新COCOMと呼ばれたりもするけれども、別モノだね。

なお、ワッセナー・アレンジメントは、先日来韓国が一方的に騒いでいる輸出管理に繋がる話で、これに基づいて日本はキャッチオール規制という制度を採用して輸出管理を行っている。

正直、COCOMが功を奏したかどうかは、僕にはよく分からない。ソ連の技術は特定分野、例えば半導体分野はかなり遅れてしまったという噂は聞く。今に至っても、ロシアは電子機器の分野では遅れている面がある。

アメリカは新COCOMを構築したい

で、冒頭のニュースではアメリカが米国輸出管理改革法(ECRA)という法律を作って、対支那でCOCOMと同じ様なことをやりたがっている、というのが冒頭のニュースである。

これまでも兵器転用可能な技術に関しては規制が設けられていたが、今回、これに14分野((1)バイオテクノロジー(2)人工知能および機械学習技術(3)測位技術(4)マイクロプロセッサー技術(5)先進的計算技術(6)データ分析技術(7)量子情報およびセンシング技術(8)ロジスティクス技術(9)3Dプリンティング(10)ロボティクス(11)脳・コンピューター・インターフェース(12)超音速(13)先進的材料(14)先進的サーベイランス技術)が加えられた。

これは中国の国家発展のための開発目標である「中国製造2025」に指定されている分野とほぼ同じである。

「産経新聞」より

この話は去年辺りも解説されていた。

アメリカは今、中国を相手に「COCOMの再現」を狙っている

2018/7/4

~~略~~

かつて冷戦時代、ソ連が米国に追いすがらんとするのを技術面で蹴落とすため、米国は共産圏諸国への先端技術の輸出を規制した。

ソ連向けには通称ココム(COCOM、対共産圏輸出統制委員会)、中国向けにはチンコム(CHINCOM)という国際合意を作り、100品目以上の軍事技術関連物資で、特定の性能を越えるものの、輸出を禁止したのである。

これは先進国間の紳士協定で、各国は制限品目をその性能とともに自国の法律(日本では輸出管理令の別表)に明記し、これを越えるものを企業が輸出する場合には、各国政府の許可取得を義務付けたのである。

因みに、この対象品目、制限性能は、状況の変化に応じて定期的に改定されていた。

「現代ビジネス」より

結局、COCOMもアメリカ主導で行われた協定であり、支那向けにはCHINCOMなる国際合意があったようだが、何れも率先して抜け駆けしていたのはアメリカだったのだから笑えない。

そうそう、CHINCOMはできて早々目的がCOCOMと一緒だよね、と統合されたのであまり知られていないようだね。僕も調べて始めて知ったよ。

ともあれ、現在のアメリカの動き、これは、COCOMの流れを汲むものだという分析をされる人もいる。

実際に、COCOMもワッセナー協約も、兵器の輸出を規制するような流れである。

アメリカが進めている輸出管理の話、 国防権限法(NDAA) などは、アメリカにとって都合の悪い貿易に対して横槍を入れることができる様な態勢になっている。

……いつの時代にも、アメリカはワガママだな。

東芝機械COCOM違反事件

さて、日本でCOCOMが有名になったのは、このCOCOMに東芝機械が違反したとして吊し上げられる事態になってしまったことが原因だと思う。

その当時輸出された機械がどういったものだったかはよく分からないのだが、東芝機械の大型工作機というと、左の写真の様なタイプのものだ。

これは門型マシニングセンタといわれる加工機で、テーブルサイズが2m×5mというシロモノで、大型の機械部品を作るには適している。この手の大型工作機を作っている企業は世界を探してもそれほど多くは無いのである。

で、東芝機械ココム違反事件(1987年)は、ソ連向けに工作機械を輸出したことで、ソ連の潜水艦の性能がアップしちゃったんじゃ無い?と、アメリカが因縁をつけてきた事件だ。

とはいえ、東芝機械から輸出された工作機械は優秀であったものの、潜水艦の性能向上との因果関係は立証されておらず、立証することも不可能である。アメリカが突きつけてきたのは「悪魔の証明」と呼ばれる類のもの。

……アメリカは、当時も今も暴力団そのものだな。

さておき、これが日米の外交問題に発展してしまい、東芝機械はCOCOMの規則を知りながら輸出しちゃったことで家宅捜索をくらい、共産圏向けの輸出停止1年という行政処分を受け、更に外為法違反にも問われる結果になった。

結果から見ると、東芝機械もかなりヤバイ山を渡ってしまったという事になるが、当時は対日貿易赤字が積み上がっていて、貿易摩擦が問題視されていた事を考えると、アメリカの言い掛かりでごり押しされた切っ掛けを作ったに過ぎないとも言える。

なお、COCOM違反でやられた企業は東芝機械だけでは無く、空調で有名なダイキン工業がフッ素化学製品に関わる規則違反を問われており、その他にも目を付けられていた企業は幾つかあったようだ。

また、COCOMが消滅した後も、ヤマハの無人ヘリコプター不正輸出事件(2005年)、日本航空電子工業のミサイル部品の不正輸出事件、SONYのプレステ2輸出規制などといった話が様々あって、日本の製品・技術がいとも容易く海外に流出する事件は後を絶たない。

こうした日本企業の姿勢は、日本の危機感の無さを示しているとも言えよう。

ファーウェイの狙い撃ち

アメリカが危惧する5G技術の覇権

さて、COCOMの話しから現代に目を転じると、アメリカはまたぞろ似たような話を持ち出しつつある。それがファーウェイの話だ。

何もこの話、ファーウェイに限った事では無いのだが、ファーウェイは特に国際的に根を張りつつあるスパイ組織なので、警戒されても仕方あるまい。

実際にこの記事に紹介したように、北朝鮮の通信インフラなども整備した疑いがある。

危機感の無い日本

日本にはスパイ防止法が無い、といって右派から嘆かれる事が多いと思う。

事実、スパイ防止法が無く、世界各国はスパイ防止法に類する法律を備えている。その面で日本は遅れていると言えるのだが、しかし「スパイ」の定義というのはなかなか難しいのも事実であり、冤罪を生みやすいという側面があるのも事実である。

したがって拙速な法整備はリスクが高い。尤も、そんな事を言っている場合では無く、スパイ天国の日本だからこそ拉致事件を許してしまった、国富を外国に流出させてしまったという事実もある。先ずは、必要性を認識するところから必要なんだと思う。

さて、スパイ防止法はないとは言え、その類のものが全く無いというわけでは無い。

産業スパイ防止へ改正法案を閣議決定 罰金上限10億円など厳罰化

2015.3.13 16:11

海外企業による産業スパイ事件が相次いでいることを受け、政府は13日、企業の営業秘密の流出を防ぐための不正競争防止法改正案を閣議決定した。

「産経新聞」より

「産業スパイ防止法」などという法律はなく、実は不正競争防止法という法律の中に備えられている「営業秘密」に関する条文を利用して法整備している。この記事には無いのだが、この他にも外為法の改正を行って産業スパイの防止に務める方向性に火事は切られている。

これもかなりヌルい法律なので、僕としてはもう少し踏み込んだ話ができないものか?という気はしている。その辺りの突っ込みは別の機会にしたい。

とはいえ、分かり易いように一つだけ突っ込んでおくと、罰金10億円って、国益から考えれば安すぎる。例えば、新幹線の技術が支那に盗まれ(実際は差し上げたのだが)、支那が外国にバンバン安値で売りさばけば、日本が外国に新幹線を売る機会は失われる。新幹線は1両3億円、16両編成で約50億円である。罰金10億払っても外国に売れれば莫大なお釣りが来る。

日本の技術はそういった付加価値が生まれてしまうのである。その価値に対する警戒心が薄すぎる。

将来的に敵対する可能性のある国に、価値のある技術をタタで渡してどうするという話なのだ。

過去の事例

もうちょっと深刻な話を紹介しておこう。

そもそもこの手の産業スパイ防止法整備が検討された理由は一体何だったのか?というと、有名なのがデンソー事件である。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/eigyo_himitsu/pdf/001_05_00.pdf

詳しくはこの経産省の分析を読んで頂きたい。顔が青くなること請け合いである。

デンソー事件について掻い摘まんで説明すると、2007年、自動車部品会社であるデンソーで、重大な技術情報流出が発覚する。 盗まれた情報は実に17万件。そのうち機密情報は約1700件で、その中には産業用ロボットやディーゼル噴射装置などデンソーの最高機密が280件も含まれていた。

この話、何が凄いかって、犯人はデンソーの社員として働いていた支那人で、データは本国に電気通信回線を使って送っていたというのだ。

2007年3月に犯人が逮捕された理由は、製品図面の横領であった。

事実だけ聞いて青くなる話なのだが、この話の深刻なところは「犯罪が行われた」という点だけでは無い。対応する為の法律が無かった点である。

この時、デンソーは何をしたか?というと、製品図面の治められたフロッピーディスク1枚が盗まれた、として訴訟を起こした。「横領」というのはそういう意味である。損害額は1円だった様に記憶している。

無体物つまりデンソーの本当に守りたかった技術情報に対して守る法律が存在しなかったのだ。そして、この裁判、デンソーは負けてしまう。情報流出が認定できなかった、という理由であったようだ。

僕がこの手のブログを書き始めた切っ掛けもこのデンソー事件を知った辺りからなので、印象深い事件でもあるのだが、この他にも技術流出事件、武器に使える製品の不正輸出事件は山のようにある。

こうした事実は、本当に深刻に捉えなければならない、敵性勢力に技術が流出する、外患誘致罪に繋がりかねない話は、日本では産業スパイ防止法という点において極めて重要なのである。

日本は何をしなければならないのか?

どこから手を付けるべきか?という点に関してはなかなか悩ましい。

ただ、COCOMの話を持ち出した理由は、非常にシンプルなのである。アメリカの考え方は単純で、「敵を徹底的に叩け!」だ。アメリカはそこに手心を加えたりはしない。

敵視されたらたまったものではないな。

しかし、そこに目を付けるべき点がある。日本は敵対する可能性の相手に塩どころか熨斗まで付けて送っている状態なので、先ずはそれを改めなければならない。そういう話だ。

そして、COCOMの話に見るように、アメリカの牙の向く先に日本がいてはならない。アメリカは敵と味方を見間違える天才だからね。

で、日本としてはスパイ防止法の制定に動く必要性があると共に、その前段階としてやるべき産業スパイ防止法の厳罰化などの国内企業の引き締めをやる必要がある。

或いは、それ以前に外部への機密情報の流出を、危機感をまず持つことが、そのスタートライン立つことだと理解しなければならない。

これは意識だけの問題だけではなく、企業のIT環境の整備において、外部からのアクセスやアタックに対応できるような体制の構築、そして中小企業こそその防衛すべき対象であるということを、政府がやっと気がつき始めたような段階である。

その事をメディアを通じてもっと広く周知すべきなのだ。

ただ、この話は対支那だけに限らない。アメリカだってロシアだってインドだって韓国だって、この手の技術に対するアプローチをしてくるのである。

国民はこうしたことを知らねばならない。

コメント

  1. 思うのだが、経産省あたりがリンクにある分析を使うなりしてもっと大々的に産業スパイの取り締まりをすべきだという主張をしたらどうなんだろう?

    出来そうな気がするのだが、スパイの邪魔(企業だの国会議員だのマスコミだのとか中共にやられている人間だらけだし・・・。)が入ってできないのだろうか。

    • 経産省はもっと大きく宣伝してイイと思います。
      ただ、経産省は経団連との関係もあるので、そうそう軽はずみな事はできないのかも知れません。それでも国民に広く知らしめ、そして教育をする必要があると思うんですよね。

  2. 木霊さん、おはようございます。

    東芝機械が血祭に合ったCOCOM事件...、日米貿易不均等の中で「生贄」的な印象が強烈ですね。

    当時はサラリーマンデビューして確か2~3年目だったんですが、企業のトップってお莫迦丸出しで「コイツらのオツムって大した事ないんだ」と冷笑した事を思い出します。
    世界で稀な大型マシニグセンターをそのまま輸出しちゃうのも論外ですが、NC制御技術はそっくりソ連に抜かれてしまうのが判らなかったのか...、莫迦丸出しでしたねェ~。

    もちろん、アメリカの貿易不均衡不満による理不尽な嫌がらせの生贄って見方もあるでしょうけど、その後も支那・南朝鮮への核心技術が実に安易に流出してきた事を考えると、日本のトップ企業の脇の甘さと政府依存体質は余り変わっていません。
    今でも手ぬるい「産業スパイ防止法」しかない日本ですから、もう一度包括的な網と厳罰を整備し直すタイミングだと思います。

    >とはいえ、分かり易いように一つだけ突っ込んでおくと、罰金10億円って、国益から考えれば安すぎる。

    ご指摘通りで経営が傾くくらいの罰金刑=例えばMax1兆円とかでもいいんじゃないでしょうか。
    時と場合によって強力なブラフは必要で、企業トップの首を飛ばすくらいインパクトのある罰則にすべき。

    諭吉翁の「学問のすすめ」を一から学び直すくらいしないと自覚も持てない、ボンクラ揃いの企業家連中と軽蔑しています。
    国にオムツ当ててもらうどころかオムツ替えまで甘えちゃっている訳で、全介護老人と何ら差はないですもんね。

    • 東芝機械がやらかした、と言う印象の強かった事件ではあるんですが、調べて見ると、当時の日本、今もなんでしょうけれど、割と自国の「技術」に関する価値を分かっていない感じなんですよね。
      よって、安易に色々輸出してしまって問題となる、なんてことが散見されます。

      罰金10億円というのも、改正当時は画期的だと言われていました。その前は確か企業に対する罰則が無くて、個人に対して1000万円とかじゃなかったかな。
      平成27年改正でようやく企業に10億という規定が盛り込まれて、個人は3000万円に引き上げられているのですが、コレも未だヌルいというのが今回の話ですね。
      流石に1兆円というのはなかなか難しい気はしますが、ちょっと支払えないレベルに設定しなければならないとは思いますよ。
      或いは、企業のトップに刑事罰が適用されるようなインパクトが無いと、ダメなのかも知れません。