速やかな軍事作戦によって、テロ組織ISの指導者的立場にあったと「される」、アブ・バクル・アル=バグダディは殺害された。
バグダディ容疑者への軍事作戦の映像を公開 米国防総省
2019/10/31
米国防総省は30日、過激派勢力「イスラム国」(IS)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディ容疑者を狙った27日の軍事作戦の様子を記録した映像を公開した。同容疑者はトンネル内で米軍に追い詰められ自爆した。
「BBC」より
テロ組織ISのニュース自体は、既に下火になっていたので、このニュースに触れても「今さら」という感想しか抱かなかったわけだが、果たしてそうなのか?という点についてはとある番組(虎ノ門ニュースである)を見て疑問に思った次第。
一時期は巨大勢力を誇ったイスラム国
軍事作戦によって次第にその支配地域を縮小する
さて、僕の拙い疑念はさておき、いつも通りこの話の大枠から紐解いていきたい。
「テロ組織IS」といえば、一般的にはISILだとかイスラム国だとかの表記がなされる過激派組織だが、僕自身は出来るだけテロ組織ISと表記することにしている。よって、このブログでもその様に表現することを最初にお断りしておく。
で、ご存じだとは思うが、テロ組織ISは、かつてその組織を拡大して「イスラム国」という独立した国であるという主張をした時期があった。だが、西側諸国も東側諸国もそれを認めはしなかった。
支配地域を広げ、司法も立法も手に入れ、軍隊という実力組織を持っていたので、定義的には国と認められて不思議はない状況だったが、そうはならなかった。国連としては暴力で拡大した組織を「国」と認めることは是認できなかったのだろうが、戦後秩序の破壊という側面もあったため、各国の利益を損なうという意味でも許される話では無かったのだろう。
そして、皮肉にもテロ組織ISは、「国土」を持ってしまったが為にその力を減じることとなってしまった。相手に攻撃目標を与えてしまったのである。
2015年には日本の国土をも上回る面積をその支配下に置いたものの、有志連合により敢えなくすり潰された。
シリア民主軍、ISの「首都」ラッカを「完全制圧」と発表
2017年10月17日 21:54
【10月17日 AFP】(写真追加、更新)イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の「首都」とされたシリア北部ラッカ全域が、4か月の戦闘を経て、米軍の支援するクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」によって制圧された。
「AFP」より
2017年には首都と目されるラッカが制圧される。これによって、「国」を名乗れなくなって消滅した……、ということになった。

そして、テロ組織ISはいなくなったことになった、少なくとも日本のメディアからは。
ところが、今年の3月になって「最後の拠点」が奪還されたという報道がなされる。
イスラム国最後の拠点奪還、残党勢力と戦闘継続
2019/03/23 10:41
【ワシントン=海谷道隆、カイロ=倉茂由美子】米ホワイトハウスのサンダース報道官は22日、シリアにおけるイスラム過激派組織「イスラム国」の支配領域を完全に奪還したと発表した。米軍の支援を受け、掃討作戦を進めてきた少数派クルド人主体の民兵「シリア民主軍」(SDF)によると、最後の拠点だった東部バグズ村を奪還したが、残党勢力との戦闘は継続しているという。
「讀賣新聞」より
考えてみるに、首都が落とされたところで支配地域が消えて無くなるワケでは無い。作戦は、支配地域を奪還してこそ終了ということになるハズだ。
そして「指導者」が殺害される
さて、そして冒頭のニュースである。
シリア北部での米軍事作戦では、バグダディ容疑者は米軍の軍用犬に追われてトンネルに逃げ込み、身につけていた自爆チョッキを起爆させて死亡した。
潜伏していた建物は、軍事作戦終了後に破壊された。
ケネス・マッケンジー米中央軍司令官は、破壊された建物は「巨大なくぼみができた駐車場」のようだと述べた。
「BBC」より
このニュースに先だって、アメリカ軍が撤退するという報道があったことは記憶に新しい。
それに関連するニュースに関して書いた記事を2本紹介しておくが、シナリオとしては分かり易いかもしれない。
「イスラム国」指導者殺害か トランプ氏が声明発表へ
2019/10/27 15:31 (2019/10/27 17:58更新)
【エルサレム=飛田雅則】CNNなど複数の米メディアは27日、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダディ容疑者を米軍が殺害したと報じた。トランプ米大統領は27日午前9時(日本時間同日午後10時)に「重要な声明」を発表すると米ホワイトハウスが明かした。トランプ氏は26日夜、ツイッターに「非常に大きな何かの出来事が今あった」と書き込んでいた。
「日本経済新聞」より
トランプ氏としては、「シリア撤退は正当である」ということを言いたいのだろう。
カリフは予言者
ところで、話は変わるが、イスラム教の開祖とされるムハマンド、或いは古くはマホメット等と呼ばれた人物は、自らを「預言者」としていた。
預言者というのは、予言をする占い師のような立場では無く、「預言」つまり神から預けられた言葉を信者達に伝える役割というわけだ。
イスラム教の聖典コーランは、唯一無二の神アッラーより預言者ムハマンドに対して下された啓示と位置づけられ、114の章からなる詩を連ねた書物である。これが中身として分かりにくいものなので、預言者がこれを噛み砕いて伝えるという役割を担う訳だ。
言ってみれば、神の通訳といっても良いだろう。
で、殺害されたバグダディはカリフ、つまり預言者ムハマンドの後継者だとその様に主張し、したがってカリフは預言者の代理人に過ぎないといわれている。
そして本来、カリフはウラマーと呼ばれる知識人によって選ばれるとされているため、テロ組織ISを支持するウラマー達が存在するのであれば、次のカリフが選ばれるだけ、という事になる。
バグダディはビンラディンとの接点があった
さて、アメリカを揺るがした911テロ(2001年9月11日)は、その首謀者として嫌疑のかけられたウサマ・ビンラディンなる人物を殺害して幕を閉じたことになっている。
アルカイーダという組織のトップだとされ、アメリカ軍は彼の居場所を突き止めて、アメリカ海兵隊を突入させて殺害するに至った。
アメリカではこの作戦の成功に熱狂し、「正義はなされた ‘Justice has been done’ 」と讃えられたという。確かに911テロで失われた命の対価として、その作戦を行ったアメリカにとってそれは正義だったかもしれないが、タリバンやアルカイーダにとってそうであったか?というと、そうでは無かっただろう。
中東では第二次世界大戦後、幾度も戦争が起こった。中東戦争は第一次から第四次まで行われ、血で血を洗うような酷い状況が続いたのだが、ここには欧米からの資金の流入が影響していたのである。ヒドイ話だが、アメリカなどの関与が無ければ、中東は今の構図にはなっていなかった。
その事を恨みに思っているイスラム教徒は多く、中東の人々にとってアメリカもヨーロッパも、中東に火種を振りまく悪魔のような国なのである。
それは宗教的な繋がりによって、その思想が広まり(多分に事実を含んでいたとは思うが)、アルカイーダという組織において、ウサマ・ビンラディンやアルカイーダ幹部とアブー・ウマル・アル=バグダディーとの連絡役としてアブ・バクル・アル=バグダディは働いていたという。
なお、アブー・ウマル・アル=バグダディーはテロ組織ISの先代の指導者だと目されている。
予言者は代替わりする
つまり何が言いたいかというと、アルカイーダの次に出てきたテロ組織ISが台頭し、これに似たようなイスラム過激派組織はまだまだ沢山存在する。
という事になってくると、果たしてこれで「終わったのか?」という疑問がわき上がる。
IS指導者爆死でもテロの脅威は増すばかり?
2019年10月28日(月)20時00分
10月26~27日に遂行された米軍の作戦によって、過激派組織イスラム国(IS)の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディとその報道官アブ・アル・ハッサン・アル・ムハジルがシリアで死亡した。だが本誌が得た情報によれば、ISでは既に後継者が決まっている。
後継者と目されるのは、アブドラ・カルダシュ、別名ハッジ・アブドラ・アル・アファリだ。今年8月には、バグダディが彼を組織の「イスラム担当」責任者として指名した、という情報が広がった(ISは公式には認めていない)。
「Newsweek」より
この様に報じるメディアもあるが、海外の知識層は日本の多くのメディアが報じるように、テロ組織ISはこれで壊滅した、とは考えていないのである。
バグダディが預言者であるとする立場が本当ならば、次の預言者が現れるだけである。そういう意味では何も変わらないというのも納得である。
それよりもテロ組織ISが「国」を失い、支配地域が無くなったことの方が大きな意味があると思う。
軍隊は攻撃目標の確かな対象には有効に機能する。しかしテロネットワークには効果が薄い。
そもそも、テロ組織ISは国という概念を持たなかったからこそ、その影響力を全世界に行使することが出来た。そのお陰で各地でテロが沸き起こってしまったワケだが、実は今年の4月頃には「かつての状態に舞い戻った」という事になったのではないだろうか。
そうだとすると、テロ組織ISが落ち目になって、指導者が殺害されたと喜んでいるのはあまりに滑稽な話だと言えよう。寧ろ今回の事で、イスラム圏にさらに1つ恨みを買う材料を提供したに過ぎないのではないだろうか。
追記
コメント頂いたが、後継者が発表されたようだ。
IS、バグダディ容疑者の後継者発表 米国に報復を警告
2019年11月1日 2:31
【11月1日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は10月31日、最高指導者アブバクル・バグダディ(Abu Bakr al-Baghdadi)容疑者が死亡したことを認め、後継者としてアブイブラヒム・ハシミ・クラシ(Abu Ibrahim al-Hashimi al-Quraishi)氏を指名したと発表した。
「AFP」より
後継者のカリスマがどうか?とかいう話は、この人物が指導者であった場合に問題になるのだが、単なる伝言役だとすると、歯車が交換されただけってな話になる。
どちらにせよ、一時的にはイスラム過激派の攻勢が弱まる可能性は否定しないが、預言者の立場で指導力は必要無いと言うことになれば、直ぐに力を回復するんだろうね。
テロには気をつけなければならない。
コメント
愛読しております。文中にかなり痛い漢字の誤用がありました….長く残るブログでしょうから訂正を、おすすめします。「秩序」⇒「膣錠」
おおっと、大変失礼しました。
普段どんな変換をしているんだってな誤字でした、お恥ずかしい。
早速修正しました。いつもならば訂正線に赤字で修正するのですが……、ちょっーっと残しておくのもどうかと思ったので、完全に差し替えなっております。
今晩は
以前、誤字の指摘とかしていいですか、と書いたら、木霊様から「歓迎」との返信を頂きました。で、誤字、脱字の指摘をしようと思ったのですが
・・・【とっても多い】・・・コレ、全部指摘するの? 大変だなぁ・・・状態なんです。ま、私の投稿もけっこうひどいけどね。でもUpする前に、もう一度読み直されては??
ワープロで文書を作成して、何回もチェックして客先へ持って行く。先方に渡して「それでは、説明させて頂きます」と言ったとたん、自分で作った文書を見て誤字に気づく。こんなの、いっぱいありました。何で気づかなかったのか・・・
難しいね。私の場合、印刷して読み返しても気づかない。緊張感とかの問題かなぁ。
誤記に関しての指摘は、言い訳できるレベルでない事は自覚しております。
文章を修正した修正箇所に誤記が、なんてことも日常茶飯自でして。
可能な限り、気をつけていきたいと思っています。
>つまり何が言いたいかというと、アルカイーダの次に出てきたテロ組織ISが台頭し、これに似たようなイスラム過激派組織はまだまだ沢山存在する。
>という事になってくると、果たしてこれで「終わったのか?」という疑問がわき上がる。
終わりなき戦いと混沌が続くのは間違いなく、本当に憂鬱な気分になっちゃいます。
>バグダディが預言者であるとする立場が本当ならば、次の預言者が現れるだけで、何も変わらないというのも納得である。
さっそく、後継者らしき人物指名が公表され(アブイブラヒム・ハシミ氏とか)、アメリカへの復讐を誓っていますね。
まさにイタチごっこ。
>それよりもテロ組織ISが「国」を失い、支配地域が無くなったことの方が大きな意味があると思う。
>軍隊は攻撃目標の確かな対象には有効に機能する。しかしテロネットワークには効果が薄い。
>そうだとすると、テロ組織ISが落ち目になって、指導者が殺害されたと喜んでいるのはあまりに滑稽な話だと言えよう。寧ろ今回の事で、イスラム圏にさらに1つ恨みを買う材料を提供したに過ぎないのではないだろうか。
報復の名の元に無差別テロの激化と連鎖が本当に心配されます。
仰る通り軍隊で対処は困難な事案で、警察レベルでの警戒や入国管理強化でしか打つ手が無いのがウィークポイント、どんな国もリスクを抱える事態が増えただけと言えるかもですね。
そうですか、後継者の発表がありましたか。
追記しておきます。
「指導者」というのは、少々ミスリードに過ぎると思うのですよね。
そして、「目には目を」とか言われた日には、まさに大変なことになりそうですけれども。アレ、確かコーランが出典だったような。
いつも、有難うございます。
クルドと縁切りして、混乱下を経済制裁でトルコを黙らせたのは、韓国離脱の良いシュミレーション。今回の襲撃は将軍様も他人事ではないでしょう。
虚勢を張るなら、ミサイル連打かな。
北の将軍様に関しては、かなり衝撃的な話も聞きます。
なんでも、幾度となく暗殺の危機に見舞われて、かなり憔悴しているのだとか。
虚勢を張るのにミサイルを撃つというのも、寧ろ国内の反感を買うような事態に繋がるでしょう。
アメリカが放置しているのが思いの外効くのかもしれません。