処理水と海洋放出

政策

本当に海洋放出すべきなのか?を、基本的なところに立ち返って考えてみよう。

韓国「福島原発の汚染水は国際問題」 IAEA総会で=日本は反論

2019年9月17日 9時37分

【ソウル、ジュネーブ聯合ニュース】国際原子力機関(IAEA)の年次総会が16日(現地時間)にオーストリア・ウィーンで始まり、韓国政府の代表団は東京電力福島第1原発から出る放射性物質を含んだ水の処理問題を取り上げ、こうした汚染水を海洋に放出することの危険性を国際社会に訴えた。

「ライブドアニュース」より

韓国がIAEAでこの問題を取り上げていて腹立たしい気分にはなるが、この問題は国内の問題として一度しっかりと理解しておきたいと思う。

原発汚染水処理「受け入れ余地ある」 松井・大阪市長

2019/9/17 13:36

大阪市の松井一郎市長は17日、東京電力福島第1原子力発電所の汚染水処理に関して「(大阪湾に)受け入れの余地はある」と述べた。松井市長は「政府は専門家会議を立ち上げ、人体などに影響のないことを明らかにすることが前提」とした上で「海洋放出すべきだ」との考えを示した。

「日本経済新聞」より

そういえば大阪知事の松井氏がこんな発言をして炎上していたが、これも物事の本質を突いていない話だと思う。これに大阪の漁業関係者がキレていたが、それも無理はあるまい。

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汚染水なのか処理水なのか

「汚染水」とは何なのか?

そもそも「汚染水」が出てくる仕組みを皆さんは理解しているだろうか?

現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~
福島第一原発の事故により生じた汚染水。海へ漏らさず、発生させないための対策も進み、効果が見られています。その対策と現状を解説します。

詳しくはこちらを読んで頂きたいが、鵜呑みにしてはならない部分もあるので、注意して読んで欲しい。で、どんな仕組みで問題の「水」が出てくるのか?なのだが、そもそも福島第1原発周辺の環境に大きな問題があるのだ。

福島第1原発周辺には豊富な地下水がある。これは、磐梯山や安達太良山を背に作られているため、山からの水が地下水として海にまで流れ出し、この途中に福島第1原発があり原子炉の内部の燃料が溶け落ちて地下に溜まっている状況だと、どうしても海洋汚染に繋がってしまうということになる。

早々に建屋を撤去し、放射性廃棄物を取り除く事ができれば良かったのだが、それは事故の影響で今なお殺人レベルの放射線を出している状況なので、早期に撤去は不可能だ。

遮水壁を作る

そんなわけで、苦肉の策として取り敢えずは「遮水壁」を作った。

苦肉の策ではあるが、とにかく外から流れ込む地下水が、放射性物質に触れなければ汚染水は増えないのだから、対策としては正しいと思う。ただ、金はアホほどかかるが……。

凍土壁など「効果がない」とか「効果が疑わしい」とかいわれているが、他に対策が見当たらないのだからいうだけ野暮である。

当然ながら、雨水などの影響もあるので、どうしたって敷地内に水は貯まってしまうんだけどね。

ALPSは万能ではない

で、敷地内に水が溜まって、福島第一原発の建屋の地下に貯まった水をどうしているか?というと、「多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)」という機械で処理している。

物々しい感じだが、これで62種類の放射性物質を取り除く事が可能だと言われているが、もちろん、「取り除けないモノ」もある。

また、62種類の放射性物質を100%取り除けるのか?というとコレも難しい。

トリチウム水と政府は呼ぶけど実際には他の放射性物質が1年で65回も基準超過

2018/8/27(月) 11:26

 福島第一原発で発生し続ける汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除いたと東電が説明してきた水、いわゆるトリチウム水に、実際にはその他の放射性物質が取り切れずに残っていることがわかった。8月19日に共同通信が取り残しを報じた後、23日には河北新報が、2017年度のデータを検証したところヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じた。

 東電は23日の会見で、超過した回数は65回だったことを明らかにした。筆者がさらにデータを精査したところ、告示濃度限度を超えたのは昨年度下半期に集中していることがわかった。

「yahooニュース」より

この記事はジャーナリストとして正しいかも知れないが、科学的には問題があると感じる。検査の母数が示されていないからである。

問題のある結果が全体の1%なのか1割なのかで印象はかなり違う、100%除去できなければ除去残りが出てきてしまっても仕方が無い。

要は、これを外(海洋)に出せるのか?というだけの話なのである。

園田政務官、原発の浄化水飲む 「飲んだら」と言われ

2011年10月31日19時9分

内閣府の園田康博政務官は31日、東京都内での記者会見の席上、東京電力福島第一原発にたまっている低濃度の放射能汚染水を浄化処理した水を飲んだ。低濃度だと証明するために飲んだらどうかとのフリーライターの求めに応じた。

「朝日新聞」より

飲める程度には浄化されているようだが。

トリチウムは危険なのか?

トリチウムは有毒ではあるが、「トリチウム水」がどうなのかについては意見の分かれるところのようだ。

取り敢えず、タンクに貯蓄する処理水の放射性物質含有量は、ALPSによって相当程度低くなったといわれている。

敷地内の線量を測定することで、タンクに起因する放射線量が減ったことを示すグラフなのだが、これが正しいと言えるかどうかはよく分からない。

確かに、タンク内に放射性物質があれば、そこから放射される放射線があり、放射線が減ったことで、タンク内の放射性物質が減っていると、その様に言えるかも知れないのだが、他の外的要因を排除出来ているのか?とか、様々な理由が想定される。

トリチウムはその性質上、生体濃縮が考えられず、体外排出が比較的スムーズに行われるので、内部被曝のリスクも少ないと言われている。

ただし、実際にトリチウムを大量に取り扱う製造の工程にいた技術者が内部被曝によって死亡事故に繋がったケースが2例ほど報告されているので、取扱量によっては十分にリスクがあると言える物質だ。

タンクの設置限界の誤謬

一方で、タンクの設置限界の話もここのところ騒がれている。

福島第一の汚染水、近づく限界 海洋放出には強い抵抗感

2019年3月19日05時30分

 東京電力福島第一原発汚染水対策が暗礁に乗り上げている。タンクで処分を待つ水は100万トンに達し、敷地内の保管容量は2年以内に東電が計画する上限に達する。時間切れが迫る中、処分法をめぐる政府や東電の議論は迷走し、なし崩しで海への排水が始まりかねないと地元は警戒を強めている。

「朝日新聞」より

処理水タンク、22年夏限界 東電試算 福島第一増量は困難

2019年8月9日 朝刊

 東京電力は八日、福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、タンクでの保管は二〇二二年夏ごろ限界になるとの試算をまとめた。タンクを大型にするなどして保管容量を増やすのは困難という。九日に開かれる政府小委員会で説明する。処理水を薄めて海洋放出することも検討されているが、漁業関係者の反発は強く、難航が予想される。

「東京新聞」より

東京電力の敷地にタンクを置くことに限界があるという事で、少々騒ぎになっているのだが、これ、「東京電力の敷地」が限界なのであって、避難によって人がいなくなっている周囲の土地は活用されないままになっている。

避難指示がなされている地域で、今も避難指示が撤回されていない場所は複数ある。

避難区域の変遷について-解説- - 福島県ホームページ

よって、「タンクを増やす事ができない!」というのは、誤解を生じる話だ。

今なお、帰還困難地域になっている土地はこんなにあり、浪江町辺りはともかく、双葉町や大熊町辺りの避難指示が解除されたところで、果たしてどれだけの人が帰還できるのかは不明だ。

東電が金を出して、或いは国が土地を買い上げてタンク設置をする土地を確保出来る可能性は十分にあると思われる。

現在用いているタンクは長期保存に適さない

もう一つ問題がある。

「とにかく海洋放出を止めろ」という意図で、仮設のタンクを山ほど作って処理水を溜めたのだが、結果的には「長期保存」に適していないモノが多数あり、これを交換しながら現状は比較的大型のタンクに貯水しているようだ。

しかし、10年や20年貯水するならともかくとして、もっと長期間保存するとなると、このタンクでも少々問題があると言われている。そもそも水を貯蓄するというのは意外に難しいことなのである。

これをもっと大型の、石油コンビナートに使われているような大型のタンクに交換するという案もあるようだが、周囲に土地が必要であることを考えると、貯水量はあまり変わらないのでは無いか?と見積もられているようだ。

現在溜められている処理水は240年程度溜めておけば、雨水と変わらない放射線濃度になるとのことで、「溜めておく」というのも一案のようだが、これにも3000億円~5000億円程度のコストは必要だといわれている。

海洋放出なのか、それ以外の手段があるのか

処理の方法

では、こうした話を踏まえて、溜まり続ける処理水をどうすべきなのか?という点を考えてみたい。

原田環境相、原発処理水「海洋放出しかない」

2019/9/10 15:19

原田義昭環境相は10日の記者会見で、東京電力福島第1原子力発電所の放射性物質トリチウムを含んだ処理水について「所管を外れるが、思い切って放出して希釈するしか方法がないと思っている」と述べた。汚染水処理後に残る処理水について政府は処分方針を正式に決めておらず、現職の閣僚の発言は異例で、波紋を広げる可能性がある。

「日本経済新聞」より

元環境大臣だった原田氏は「海洋放出しかない」と主張したようだが、これは本当だろうか?

現在提案されている手法のうち、現実味があるものは2つだと思う。

  1. タンクに貯水する
  2. 海洋放出する

この他にも地中に圧入するとか、空気中に撒布するとか、地下に埋設する施設を作るだとか、凡そ現実味の無い話が色々提案されているようだが、コストの面からも実現性の面からもかなり怪しい。

なお、大阪府知事の発言は、輸送コストを考えていないので検討するに値しない。目立ちたいだけだろう。

タンクへの貯水

土地の問題は東京電力が「ダメ」と言う。

彼らの試算によれば、2022年には敷地内にタンクを設置できなくなり、貯水はそれ以降不可能であると言う事になっている。しかし、そうはいうものの、前述したように周囲に使える土地を買うことが可能である事を考えれば、それは決定的な理由とはならない。

じゃあ、土地を買い、大型タンクを作って貯水すれば良いのか?というと、それでも240年間貯水し続けるというのは凡そ現実味が薄いと思う。

タンクが増えれば増えるほど、その維持にかかるコストは増えていくので、金銭的な問題もあるのだが、そこは税金で賄うとしても、確実に240年もの期間、液体を保管しうるのか?という点については非常に怪しいと思っている。

つまり、タンクでの保管というのは、維持管理の面で非常に困難性が高いと思う。現在の技術で「100年安心!」というのは無理があるんじゃ無いかな。

そして、そもそも「タンクでの保管」をしたところで、放射性廃棄物が海に流れ出す事を防がれるというわけでは無い。何故ならば、汚染水を地下から組み上げ続けてはいるが、全量組み上げられているわけでは無いので、部分的にはどうしても海洋放出されてしまうのである。

海洋放出

では、全部海に出せば良いか?というと、これもなかなかシンドイ話ではある。

参考までに、日本の原子力発電所で、放射性物質を微量に含む水を海に放出していないトコロは無く、トリチウムを大量に含む水を扱う原子力発電所が日本国内では少ないので問題とはなっていないが、それでも年間で2~5TBq程度のトリチウムは放出されている。

こうした原子力発電所の運転で、放出されるトリチウムは世界的に見ても多く、例えば重水を使って発電を個鳴っているカナダやそのカナダから原子炉を買った韓国などは、発電所あたりの年間トリチウム放出量は400TBqを超えているというから、「海洋汚染」と騒ぐ程のことなのか?という疑念は生じる。

この記事でも指摘されているが、600TBq程度のトリチウムが海洋放出されたところで、健康被害など考えるだけ無駄なレベルなのだという話ではある。

ただ、「薄めて流せばOK」で大惨事を招いたのは、日本の四大公害で苦い経験をしたはずで、「困った事」に繋がりかねない。少なくとも、安易に流せないという「懸念」を持つことは大切なのだと思う。

そして2018年頃に騒ぎになっていたが、「処理水」に「トリチウム以外の核種」が混入している疑いがあり、実際に、基準超えのデータが出ていたと言うことで、これが是正されるべきだという意見があったことも、思い出しておくべきだろう。

残念ながら、現在、タンクに収められている「処理水」は、東京電力が発表しているほど安全ではない「可能性」があるのだ。

貯蓄しながら海洋放出

であれば、ALPSの信頼性を今一度疑ってみる事を前提に、半減期が12年程度のトリチウムを一旦貯蓄した上で、20年~40年程度の保管を目処に海洋放出をしていくというのが、折衷案で現実的なんだろうと思う。

もちろん、保管する為には、再度、処理済みの水を調査し、必要に応じて再処理をする必要はあるのかも知れないが、そのためにお金がかかるのは仕方があるまい。

今すぐ全量海洋放出しろという話にすると色々ややこしいのだが、「安全な水」の前提が崩れた以上は、調査が必要だし、「そのまま薄めて海に流す」或いは「240年保管」というよりはマシな手段だろう。

そもそも今の小型タンクは、長期貯蓄には耐えられないので、何れにしても交換せざるを得ない。土地の確保と大型タンクの設置、再調査の上で時間を置いての海洋放出というのが妥協点じゃないかと思う。

まあ、再調査したことで「海洋放出して問題無い」という確証が得られれば、流してしまっても問題無い気はするんだけれども。今のシナリオは、前提である「トリチウムしか含まれない」という話が信用出来なくなったところに問題があるのである。

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