農産物の保護にようやく乗り出す農水省

農業

日本の農政や水産業が立ち遅れていることは案外知られていないが、近年になってようやくその保護の必要性に気が付き始めたようだ。

日本発の果実、中韓に流出 農水省が保護へ法改正へ

2019.5.25 22:44

農林水産省が、国内で開発された農産物の新品種保護の強化に向けて、種苗法を改正する検討に入ったことが25日、分かった。新品種の海外流出が問題になっているためで、農産物の輸出を阻害する事態に歯止めを掛ける狙い。農水省は検討会の議論を踏まえて法改正の作業に入る。早ければ来年の通常国会での法案提出を目指す。

「産経新聞」より

このブログでは、読者の希望によって農業にも少し光を当てる機会を設けることにしていて、調べているうちにアンテナに引っかかったのが種苗法の改正の話である。

まあ、この手の情報はあまり需要が無いのか、アクセス数が伸びない傾向にあるのだが、趣味の範疇でブロクを書いているので、時にはこういう話も良いよね。

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盗まれた章姫

近くの泥棒国家

隣の家が泥棒だったら?などと考える人は、日本においてはそうは多くないのだと思うが、「人を見たら泥棒と思え」という諺があるくらいだから、性善説に立って「疑うことを放棄する」というのは宜しくない。

なお、誤解している人がいるのであらかじめ書いておくが、他人は必ずしも泥棒である、という意味の諺ではなく、他人をむやみに信用してはいけないという戒めの言葉なので、「他人を疑え」ということではなく、「他人を軽々しく信用するなという、自らへの戒め」の意味合いが強い言葉である。自分自身への警句だと認識すべき言葉だ。

さて、そんな前提に基づいてこのニュースを読んでみると、なかなか味わい深い。

ミカンは出荷停止、イチゴも一騒動…韓国、日本産果物に“照射”!? 無断栽培、第三者譲渡…次に危ないのは「動物」か

2019.2.4

日本ブランドの果物が韓国など海外に流出し、無断栽培や交配が行われる事態が拡大している。ミカンでは韓国農家の生産品が出荷停止となった一方、日本起源の韓国産イチゴが日本の大型スーパーで販売された。専門家は「産業スパイはどこにでもいる」と警鐘を鳴らす。

~~略~~

イチゴも一騒動となった。韓国に流出した日本産の品種「レッドパール」と「章姫」を交配したものとされ、韓国で12年に品種登録された「雪香(ソリャン、またはソルヒャン)」が昨年12月14日から今年1月3日の間、イオン北海道の31店舗で販売されていた。同社は夕刊フジの取材に「法的な問題はない」とした上で、日本品種の無断栽培との批判について「販売者なので答える立場にない」と回答した。

「Zakzak」より

この記事を読んで衝撃的だったのは、イオン北海道の回答である。

確かに法的な問題はないが、イオンは盗品であっても利益のために売りさばく、「蚤の市」のような団体だと自ら主張しているようなもので、なんとも情けない。

日本の農家は無防備にすぎる

しかし、イオンのようなモラルを疑う団体はそれほど珍しいわけではない。むしろ、こうした問題に対する危機感がない日本の農家の姿勢のほうが問題であり、それ以上にこれを保護する立場にある農協の為体が情けない。

圧力団体である農協は、政府に対して農産品を世界に売るのであれば、「保護ができる体制にすべきだ」と訴える義務があるし、その手法を提案するのは農家ではなく農協なのだ。

農家の利益の上前をはねるだけの団体でいるのであれば、早々に潰れるべきだろう。

UPOV条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)では、海外で品種登録できる期間について規定があり、自国内での譲渡開始から4年以内、ミカンやマスカットなど木本(もくほん)性植物などは6年以内と定められている。

 この登録期間を逸してしまったのが、ブドウの高級品種「シャインマスカット」だ。「今から権利を保護するというのは制度上できない」(前出の農水省担当者)という。開発元の農研機構は「国内で登録し、販売者に海外に譲渡しないよう伝えたが、中国や韓国などで無断栽培されていると知った」と話す。

「Zakzak」より

世界を相手に商売するにあたって、泥棒のような行為を働く他国の団体や、国家ぐるみでの行為を当然想定しなければならない。

それを保護する役割を、農協は求められているのだ。

更に、TPPなど締結を促進して、世界に農産物を売り出そうというのであれば、政治家だってそうした戦略を考える上で保護することまで考えねば嘘である。役に立たない政治家は、選挙でさっさと落とすべきだ。

農水省が重い腰を上げる

さておき、こうした事態を受けて、ようやく重い腰を上げたのが農水省である。

2012年には問題が発覚していたのだから、実に7年間も問題を放置したということになり、その分、農家の利益は失われてしまったと言っていいだろう。

日本では、農産物を品種登録すると種苗法で登録者(育成者)の販売権が25年(果物は30年)保護される。ただ、種苗の海外流出を食い止める規制が不備で近年、優良な品種が流出する事態を招いていた。

~~略~~

農水省は、こうした事例を繰り返さないよう、種苗法で種苗の持ち出しを実効性のある形で禁じる方向で検討。保護期間の延長も想定する。併せて、海外での品種登録を支援する事業も強化する方針だ。

「産経新聞」より

そんなわけで、法整備をする事になっているようなのだが、しかし、これも残念ながら「問題解決」には至らない可能性が高いだろう。

農業の保護には何が必要か?

法改正の必要性

さて、僕自身は法律を作るような立場にないし、その知識だってない。素人感覚で何がわかるのかという話だが、しかし、本来、法律の条文に書いてあることは、その時代に必要と思われたことがベースになっている。

つまり、数十年前までは日本の農産物が海外にこれほどまでに売れるなどということは想定すらされていなかったわけで、当然、不十分であると考えてしかるべきである。

政府は農産物の輸出を目標の1兆円からさらに拡大させていくことも視野に入れている。このため、今後、開発される新品種の保護を強化していくことで、日本産と海外流出した品種が競合する事態を回避したい考えだ。

「産経新聞」より

農産物の輸出の方向性は第二次安倍政権になってからなので、ここ5年位で大きく事態が変化したと見ていい。

つまり、法律は全くそのことを想定していないはずである。

だから、条文を読まなくたって、法改正の必要性があることくらいは素人でもわかるわけだ。

種苗法はどのような法律か

では、今回のニュースで主役になっている種苗法とはどんな法律か?というと、植物の新品種の創作に対する保護を定めた法律で、「新品種を登録」することで、「植物の心品すを育成する権利」を占有することができるルールだ。

つまり、新しい品種を開発したら、一定年数(品種登録の日から原則25年)、その育成について独占ができる。他人に作らせた場合には、一定の割合で対価を得ることができるようになる。

考え方としては特許法などの知的財産権に近いね。

ただ、これ、特許法もそうだが重大な欠点がある。

特許法の場合、特許権の保護は一般人を想定しておらず、莫大なコストを掛けて開発することができる企業が、戦略的に権利を保護する場合に適した制度になっている。

種苗法も同じで、製品開発には長期間に渡る開発期間とコストがかかるため、品種開発に成功すればよいが、失敗すると目も当てられない。その上、品種開発した場合にも、保護を受けるためには、出願し審査される必要がある。

この場合、出願にも審査にも時間がかかる上、登録されるまでにはそれなりのお金が必要になる。

商品として売れ始めてからでないと、そうした手続きをするコストを賄えない農家にとっては、ハードルはかなり高いし、人気が出始めた途端に苗を狙われる状態になるため、保護される前に盗まれるリスクがある。

国内法では外国に対抗できない

その上、今回のケースで問題になっているのが、外国の農家が日本から苗を盗んで外国で登録してしまうケースだ。

イチゴのケースで言えば、「章姫」と「レッドパール」はそれぞれ別の農家が開発した品種で、それをかけ合わせて新たな品種にしてしまっているところにまた問題がある。

日本のイチゴが韓国流出、腹は立つけど実は損失は出ていない

2017年09月06日 11:30

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

9月1日の東京新聞に衝撃的な記事が載っていました。それは「日本のイチゴ品種が韓国に流出した」というものです。

私たち日本人としては「日本のイチゴ品種で韓国が稼いでいる」と聞くと感情的にはムカムカしてしまいますよね?実際、ネットでは結構韓国叩きの発言が見られます。しかし、ムカムカする感情を抑え、冷静に考えると記事の中にある「5年間で220億円損失」という農林水産省の試算については疑問を感じます。今回は記事の引用をしながらお話をしていきますね!

「アゴラ」より

挙句の果てにはこんなことを言う人までいる始末だ。

この人は、遺失利益の損失という概念を理解していないようで、相互補完関係という法律的な概念を一度勉強されることをオススメする。

確かに可能性としては、220億円の損失が出なかったという風に理解することもできる。が、輸出額からの推測だけで「輸出できたとは思えない」などという意味不明なことを仰られるのは間違いだ。呆れてモノが言えない。注目すべきは、日本より太い販路を持っている韓国に流出したがために、韓国が本来得るはずのない利益を叩き出したという点だ。

……ちょっと話がそれてしまったな。ここで大切なことは、種苗法改正だけでは対応できないということである。国内法は外国にまで及ばないからね。

しかし、種苗法のベースとなる国際条約は存在して、それをUPOV(植物の品種の保護に関する国際条約)というのだが、それで保護する道はあるということだ。

ただ、UPOV条約でカバーされる品種のうち日本から出願できる植物は限られているんだけどね。

その上、アジアでは、日本、シンガポール、ベトナム、支那、韓国の5カ国のみがUPOV条約加盟国であって、条約を守らないことで有名な支那や韓国はもとより、条約に加盟すらしていない、台湾やその他のアジアの国々には条約すら適応がない。

UPOV条約と保護対象植物

  • 日本・・・・・条約締結国 全植物が保護対象
  • 中国・・・・・条約締結国 139品目が保護対象(小豆、いぐさ等は対象外)
  • 韓国・・・・・条約締結国 189品目が保護対象(いちご、ミカン等は対象外)
  • シンガポール・条約締結国 蘭類8品目、鑑賞樹5品目など15品目が保護対象
  • インドネシア・未締結   全植物が保護対象
  • フィリピン・・未締結   全植物が保護対象
UPOV条約とは
UPOV条約は植物の新品種は各国が共通の基本原則にしたがって保護するための条約です。新品種保護の条件、保護内容、最低限の保護期間、各国国民の待遇などを定めています。加盟していない国もありますので輸出をする時は注意が必要です。

こんな具合で、保護がままならない状況にある。

政府として農家を保護する体制を明確に打ち出す必要がある

外国に対し、モノを言えるのは。残念ながら政府しかいない。

民間で物申したところで、なんの効果もないのが一般的で、国際的な枠組みづくりをし、日本の製品が保護されるような仕組み作りが大切である。

例えば、国内法の改正だけではなく、外国が品種登録された商品をコピーして販売するような状況が発生した場合に、それをチェックし、摘発して、国際的な圧力をかけられるだけの影響力を行使するような表明をおこない、実際にそれを実行することが何より大切である。

例えば、世界中に「フランスワイン」は有名になっているが、これはフランスの戦略的な保護方針があってこそ実現されている話である。

チーズや発泡酒についても、それぞれ積極的な保護を打ち出す国が多い。

結局、戦略的に世界に農作物を売り出すためには、政府もそれなりの覚悟をもって臨む必要があるというわけだ。

日本の農水省にその覚悟と実力があるか?といえば、今までやってこなかったのだから「ない」と言わざるを得ない。むしろようやくその一歩を踏み出した段階だと言える。

こうした取り組みは、今後も是非続けてほしいし、そうなるように国民も働きかけが必要だろう。

コメント

  1. マスメディア反乱軍 より:

    木霊さん、おはようございます。

    これ先日のブランド牛保護とリンクする話ですね。

    >更に、TPPなど締結を促進して、世界に農産物を売り出そうというのであれば、政治家だってそうした戦略を考える上で保護することまで考えねば嘘である。役に立たない政治家は、選挙でさっさと落とすべきだ。
    >2012年には問題が発覚していたのだから、実に7年間も問題を放置したということになり、その分、農家の利益は失われてしまったと言っていいだろう。

    農水産族議員はいったいちゃんと仕事してんのか!! と怒りさえ込み上げてきますね。

    >例えば、国内法の改正だけではなく、外国が品種登録された商品をコピーして販売するような状況が発生した場合に、それをチェックし、摘発して、国際的な圧力をかけられるだけの影響力を行使するような表明をおこない、実際にそれを実行することが何より大切である。
    >日本の農水省にその覚悟と実力があるか?といえば、今までやってこなかったのだから「ない」と言わざるを得ない。むしろようやくその一歩を踏み出した段階だと言える。
    >こうした取り組みは、今後も是非続けてほしいし、そうなるように国民も働きかけが必要だろう。

    つまり、ようやく始まったばかりで先行きもほとんど見えないって事ですか...、やれやれ感で脱力しちゃいますねェ~。

    • 木霊 より:

      この分野はなかなか難しい面もあるのでしょうけれど、農水省があまり仕事をしていない感じはしますよね。
      声を上げていかねば変わらないところでしょうから、今後も定期的にこんな話を調べていきたいと思っています。