ブランド牛を守る対策を

政策

あまり知られていない事かも知れないが、「和牛」という品種は存在しない。

いや、「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4品種を指して「和牛」と呼んでいるのだが、日本国内で飼育されている肉用種の8割が「黒毛和種」であると言われており、「黒毛和牛」をありたがる日本人は多いのだが、何のことは無い、日本国内の肉牛の殆どが黒毛和牛である。

近江牛ブランド、関税交渉がほんろう 遺伝資源保護策も深まらぬ参院選

7/18(木) 10:00配信

21日投開票の参院選で、近江牛を肥育する滋賀県の農家らが牛肉を巡る貿易政策に注目している。

~~略~~

今年に入り、和牛の受精卵と精液が中国に不正に持ち出される事件も発覚し、岡山さんは「国内畜産業の財産なので、これ以上流出しないよう、保護のための法律をつくってほしい」と求める。持ち出し事件は伝染病に対処する家畜伝染病予防法によって摘発された。長年改良を重ねた和牛の受精卵などが、守るべき知的財産であるとの考えには基づいていない。和牛ブランドだけでなく、日本農業の遺伝資源保護は国内法が不備だ。

「京都新聞」より

この記事に出てくる「近江牛」なども「黒毛和種」の但馬牛をベースに滋賀県内で最も長く肥育された場合に許される称呼である。「近江牛」は三大和牛の一角に数えられ、400年の伝統があると言われている。

スポンサーリンク

赤松口蹄疫事件(2010年)

日本の畜産業に大打撃を与えた事件

さて、和牛を語る上で忘れてはならない、日本の畜産業の未来を閉ざすかも知れないところまで追い詰めたのが、赤松口蹄疫事件である。僕はこの事件を未だに許すことはできない。

平成22年(2010年)4月20日に最初の口蹄疫を患畜を確認したが、当時農林水産大臣だった赤松氏が初動を全く行わずに中南米への外遊に行ってしまった。口蹄疫防疫対策本部の設置は同20日に設置されたが、実際にそれが稼働したのは、第2回の会議が開かれた4月28日になってからである。

当時、宮崎県知事だった東国原氏は、4月27日に支援を求めて上京しているが、東国原氏の初動も遅かった事が悔やまれる。赤松氏は、当初の計画通りに4月30日に南米諸国に出発。5月8日に帰国した時には、被害は拡大し、宮崎県を赤松氏が訪れたのは5月10日のことであった。

この事件で殺処分された家畜は29万7808頭、関連損失は950億円であったとされている。歴史にたら、ればは無いのだが、自民党政権下であればここまでの被害は拡大しなかった可能性はある。

時系列で見ていくと、5月15日辺りで被害拡大を押さえる事ができていたのであれば、被害額も半額以下くらいで抑えられたのでは?という気はする。

これは根拠なく云っているわけでは無く、平成12年(2000年)4月頃に同じく宮崎県で3戸で確認され、同年5月11日に北海道で1戸の感染を確認している。

平成12年の我が国における発生の経緯及び対応:農林水産省

この時はそれ以上の事態に至らず収束したのである。対応で何が違ったのか?は、今となっては比較することが難しいが、赤松口蹄疫事件で深刻だったのは、エース級種牛を例外なく殺処分してしまったことにある。

悩みの種は、他にもある。子牛産地の宮崎県で2010年に家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」が発生するなどし、子牛の価格が高騰。近江牛産地の同干拓地でも購入価格は近年80万円台で推移し、5年前の2倍近くになっているという。こうした中、将来を見据え、若手の経営者らも対策を打とうとしている。

「京都新聞」より

こんな人物が未だに立憲民主党の議員である事に絶望感を隠せないワケだが、九州の畜産業を壊滅的な状態までに追い込み、種牛まで例外なく殺処分させたことで、長期間にわたってそのダメージを残すことになる。

その影響は全国に波及したというのがこの記事からも分かるだろう。

和牛は日本在来牛とは違う

さて、こうした「和牛ブランド」を支える日本の牛たちだが、実は在来牛ではない。

日本では江戸時代まで「役牛」として労働に従事させていたのだが、食用としては殆ど利用がなかったといわれている。江戸時代には牛の肉食を忌避されたようだが、それ以前は食べられていたようだ。ただ、一応、狩猟で得た獣肉は食べてもOKで、家畜を殺した獣肉は食べてはダメ、という感じだったようである。特に足の無い魚はよく食べるけれども、二本足の鶏、四つ足の家畜という順番に食べられにくくなる傾向にあったようだ。

これは仏教の影響が強かったと言われているが、どちらかというと家畜は家族に近い扱いだったという風に理解するのが良さそうである。一緒に働く仲間、というわけだね。

日本で食肉が盛んになったのは明治時代以降で、すき焼きが大流行したことも影響しているようだ。

で、この頃には欧米から肉質の優れた牛を輸入し、在来牛と交配させて増やし始め、大正元年(1912年)より組織だった品種改良が始まったという。それ以降、冒頭で触れた4品種が増えて行くのだが、純粋な在来牛を残すという発想は無かったようで、日本の牛の殆どは外国品種との交雑種になった。

ただ、偶然が重なって山口県萩市の見島牛と、鹿児島県十島村の口之島牛の2種だけが在来牛として現存し、天然記念物に指定されているそうな。

世界でも通用する味

さておき、「和牛」は品種改良の賜として、日本各地で今なお飼育されているのである。

そして、この日本の食肉業界にショックを与えたのが平成3年(1991年)に行われた牛肉の輸入自由化である。ここから日本の肉牛は高級化の一途を辿り始めた。

ところで、日本政府は昭和15年(1940年)頃から和牛品種を規定するとともに、政党制を守る目的で和牛の精子や胚に関して厳しく輸出規制をした。ところが、1976年にアメリカに研究目的で連れて行かれた牛から相当量の和牛の精子と胚が他国にばらまかれる結果になる。

今や、オーストラリアに「混血和牛」は約25万頭、アメリカに約5万頭が飼育されているといわれる。驚くべき事に、オーストラリアにもアメリカにも「和牛農場」があるというのである。他にもカナダ、スコットランド、台湾と、和牛の子孫は飼育されている実態があり、2019年3月には、支那に受精卵と胚を持ち出そうとして逮捕された事件が報じられている。

何故こんなに広まったかというと、どうやら味が決め手だったようだ。食肉用として、品質が高かったために、ブリーダーがその品質に惚れ込んで和牛を飼育したというのである。

和牛精液あわや国外へ 出国検査甘さ露呈 申告制、告発わずか 貴重な資源流出は打撃

2018年11月26日

輸出禁止の和牛精液が日本国外へ不正に持ち出されていたことが、農水省への取材で分かった。中国入国時に見つかり中国国内への流出は水際で止められたが、日本の検査はすり抜けており、検査体制の甘さが浮き彫りになった。畜産関係団体は「和牛精液が流出し、他国で生産が広がれば和牛の輸出先を失う。畜産農家は大打撃だ」と危惧する。

~~略~~

中国で肥育農家の技術指導を手掛けるなど、現地の事情に詳しい松本大策獣医師は「和牛精液を欲しがる業者はいくらでもいる」と警鐘を鳴らす。既に精液が持ち込まれたとの情報も耳にしたことがあるとし、「今回のケースは氷山の一角ではないか」と指摘する。

「日本農業新聞」より

そして、違法に持ち出されていることは、もはや疑いようがない。

法的保護は十分ではない

家畜伝染病予防法で保護される実態

で、この大阪の事件で用いられたのは家畜伝染病予防法であったという。

持ち出し事件は伝染病に対処する家畜伝染病予防法によって摘発された。長年改良を重ねた和牛の受精卵などが、守るべき知的財産であるとの考えには基づいていない。和牛ブランドだけでなく、日本農業の遺伝資源保護は国内法が不備だ。

「京都新聞」より

ブランドを守るという意識が薄い。

 畜産業界からは心配する声が上がる。法規制の前にオーストラリアに遺伝資源が流出したことにより、オーストラリア産「WAGYU」が日本の和牛と競合し、輸出に影響が出ているためだ。日本畜産物輸出促進協議会は「国も牛肉輸出には力を入れている。遺伝資源の流出は大きな問題だと受け止めてほしい」と訴える。

 違反者への対応にも疑問の声が上がる。同法は違反すると、懲役刑が付くこともあるが、罪に問うには動物検疫所の刑事告発が必要。今回、同所は厳重注意だけでこの男性を解放した。同所は「初犯で悪質ではないと判断した」(危機管理課)と説明。手続きに時間がかかるため、刑事告発することは「年に数回もない」という。

「日本農業新聞」より

そして、オーストラリアの和牛が競合相手だというのだから、何とも頭の痛い話だね。

一般国民としては、「安心・安全」を謳う日本の「和牛」をありがたがる風潮から脱却できないまでも、スーパーで並んでいれば、安ければ手に取ってしまう。僕だってそうだ。

TPPの影響を受けて、多くの食肉業者が廃業する可能性もあるだろう。

ただ、それはTPPが悪いという話とはまた異なると思う。国際競争力を持つ業者が生き残っていきさえすれば、それはそれで良い様にも思う。とはいえ、食肉牛の裾野がしっかりと広がっていないと、頂点に立つ食肉牛を支えられないのが、業界構造の悩みではある。

品質の良い牛ばかりは育たないので、高品質に届かない牛にも値段が付くような環境を構築できないと、業界が崩壊するリスクがあるのだ。

そういう意味で、セーフガードを設けておくことは大切だとは思う。そして、和牛を守る法律もしっかりと検討して欲しいものである。

なお、和牛に限らず、様々な分野でこうした問題はある。食の問題を疎かにしてはいけない。

コメント

  1. 今夜は晩酌 より:

    相変わらず木霊さんの斬り込みは凄みがあり考えさせられます。この和牛問題は食文化でもあり、経済問題でもあり、ゲノム管理問題の典型例ですよね。
     小生も多大な時間を掛けて作り出された品種(少々心は痛みますが)に対して、生産者の権利と利益を守る(特に無法な海外)手立てを整備するのは重要だと思います。当然ブランドや、業者の利益(権利)保護も必要だと思います。しかしこの保護する対象はブランド名や、品種(遺伝子情報)というのが非常に厄介と思います。ブランド名は簡単にパクられます。そして遺伝子の商品としての保護は管理が難しすぎることではないでしょうか。(ゲノム情報を厳密に管理は難しい)
     更に問題なのは食の根幹である農作物の(人間用も畜産用も含めて)の種子販売の異常な寡占化に恐怖を感じます。
     分かりやすく世界トップ企業のモンサント(ラウンドアップでおなじみ)デュポンなどはタ-ミ-ネタ-シ-ドを世界中に売りまくり、更に特定農薬に耐性のある種子を販売する企業です。(当然農薬と種子はセット販売)遺伝子操作による食の覇権を狙う、子供の頃なら「悪の秘密結社」を彷彿とさせる事を経済活動として行っています。(日本のサカタのタネも近い事をやっているようですが)
     ヘゲモニ-の基本は経済覇者ですが、企業という魔物の強欲を人間はコントロ-ルしなければ非常に住みずらい世界になりそうで不安です。
     

    • 木霊 より:

      今回の記事では「どう防ぐべきか」という事について言及しませんでした。
      ご指摘の通り、調べれば調べるほど難しい事が分かったからです。
      ただ、やり方としては、「やっちゃだめなことだよ」ということを明確にするためにも専用の法律を作り、罰則規定を設けることでしょう。これ、実効性については怪しいのですが、ひとまずは国民に「やっちゃダメなことだから」と言うことを広く知らせる事は必要だと思います。
      モンサントの話は良く聞きますが、あれも「違法」というわけではないから厄介ですね。何でも法的な網をかければよいというモノでもありませんが、日本文化を守るという視点で、政治家にはもうちょっと考えて欲しいものです。

  2. マスメディア反乱軍 より:

    捕鯨でも散々国際社会にイジメ続けられきたんで明白なんですが、食文化を守るという基本となる大義を忘れてはなりませんよね。

    木霊さんの鋭いご指摘と義憤はごもっともですし、日本人が真剣に共有すべき課題だと政府は喚起する策を打ち出して欲しい。

    とはいえ、今夜は晩酌さんのご指摘にあるように「ゲノム情報を厳密に管理は難しい」と「更に問題なのは食の根幹である農作物の(人間用も畜産用も含めて)の種子販売の異常な寡占化に恐怖を感じます。」は、問題の深刻度を突いていると本当に勉強になりました。
    ここは政府・科学者・民間企業の知恵を総結集してでも、生きる基本足る食文化=日本古来&未来に繋がる文化を守り抜く強い意志を発信して欲しいですね。

    アメリカの穀物メジャーの暗躍は今に始まった事ではありませんし、米・麦の主食はもちろん大豆など様々な種に食指を伸ばし拡大し続けているのでしょう。

    • 木霊 より:

      捕鯨の話は、あれも「食文化を守れ」というフレーズで説明されていますが、現実的にはもうちょっと後ろ暗い部分もあるようです。
      ナニゴトもキレイゴトだけでは済まないのが、大人の社会の嫌なところではありますが……。
      それはそれとして、「和牛」を世界にうっていくためには、それなりに対策を講じるべきでしょう。単純に言えばそれだけの事なんですよね。

      • マスメディア反乱軍 より:

        木霊さん、レスありがとうございます。

        >ただ、やり方としては、「やっちゃだめなことだよ」ということを明確にするためにも専用の法律を作り、罰則規定を設けることでしょう。

        単純に一番の重要懸案のひとつである、「スパイ防止法」の法制化じゃダメなのかなァ~?
        遺伝子情報とはいえ立派に現物を盗むのですから、産業スパイって事で当然網に掛かると思うんですけど。

  3. 木霊 より:

    >マスメディア反乱軍さま

    そうですねぇ、「スパイ防止法」が一番望ましいと思いますが、果たしてそれが国会を通せるかどうかは。
    未だにスパイ防止法に対するアレルギーは強いみたいで、その辺りを議論するくらいならば、個別に法案を通したほうがましであります。

    種苗法が、農産物を守るのには適してはいますが、DNAレベルでの保護となるとざるも良いところで、海外流出を防ぐ法制にはなっていません。実はそれ近い形での法改正があるというニュースを見かけましたので、一本記事にしましょうかね。
    しかし、畜産物に関してはもっと遅れているのですよね。その辺りを守るという発想がそもそも無いらしく、特許的な考え方も馴染みません。保護と規制ができるような法制度を作るべきだと思っています。